【第8期 第4回講義】
「カブトムシのひみつを徹底調査!~カブトムシの角がどのようにして作られるのか!?~」

基礎生物学研究所
特任助教 森田 慎一 先生

お待たせいたしました!
2021年11月13日に実施した「第4回講義」にご登壇いただいた、基礎生物学研究所 森田慎一先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
感想を含めいろいろな質問をいただいた中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしました。
森田先生の追加の特別講義、非常に詳しくお答えいただいております。ぜひ読んで学んでみてください!


【基礎生物学研究所 特任助教 森田慎一先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1. どうしてカブトムシは夜行性なのに明るいところに来るのでしょうか。

良い質問ですね。光に向かう性質を正の走光性 (そうこうせい) といいます。「飛んで火に入る夏の虫」ということわざがあるかと思いますが、これは昆虫の正の走光性により、火の明るさにひきよせられてしまう現象を捉えたものです。この習性を利用して、昆虫を捕まえる方法 (ライトトラップ) もありますね。さて、質問の回答ですがわかっていません。いろいろな説 (コンパス理論、マッハバンド理論、オープンスペース理論 など) があるので、わかりやすい 2 つの説を紹介します。1つ目はコンパス理論について (ガなど)。みなさんも夜、全く光がない状態だと方向感覚がわからなくなってしまうと思います。昆虫も同じで方向感覚がわからなくなってしまうため、月や太陽を目印にしています。月や太陽に対して一定の角度に体を固定することで、直線的に移動していると考えられています。ここで重要なことは、月や太陽はすごく遠くにあるということです。すごく遠くにあるので直線的に移動することが可能です。もし人工的な光を月と間違えてしまった場合、昆虫は渦を描くように光の中心に向かってしまします。結果として光に向かって飛んでいるように見えます。これは実際に自身でやってみることができるので、大人と一緒に試行錯誤をしながら試してみてください。面白いと思います。2つ目はオープンスペース理論について。暗い中で闇雲に飛ぶんでしまうと、様々な障害物 (木など) にぶつかってしまいうまく飛ぶことができない場合があります。そこで昆虫は、光が差し込む方向に飛ぶことで障害物を回避していると考えられています。これは、光が真っ直ぐ進むという性質を利用したものです。これも懐中電灯等でやってみることができるので、大人と一緒に試してみてください。

★質問2. カブトムシは遺伝子を変えると角の形が変わるように飛ぶ速さなどほかに変えられることはあるのですか。また、変えられるとしたらどのようなことですか。

飛ぶ速さを変える遺伝子はあると思います。カブトムシが飛ぶためには後ろの翅と、後ろの翅を動かすための筋肉が必要です。カブトムシの体は大きいため、飛ぶためにはたくさんの筋肉が必要ですね。胸部を micro-CT で解析すると、飛ぶための筋肉 (飛翔筋; ひしょうきん) がたくさんあることがわかっています。従って、後ろの翅の形を作る遺伝子や翅を動かすための筋肉を作る遺伝子等の働きを抑えると、飛ぶ速さが変わると考えられます。

★質問3. カブトムシ以外の虫もDNAの文字数は同じくらいなのでしょうか。また、異なった場合は文字数が1番多い虫はなんでしょうか。

昆虫の種類によって全く異なります。最もよく研究されている昆虫であるショウジョウバエのゲノムサイズは約 1.4 億文字です。その他にも、ニホンミツバチは 2.1 億文字、ナミアゲハは約 2.4 億文字、ナミテントウは約 4.2 億文字、フタホシコオロギは 17 億文字と様々です。現在一番文字数が多いとされているトノサマバッタの仲間の DNA の文字数は57億文字と、人よりも多いことが知られています。

★質問4. なんでカブトムシは遺伝子が人間より少ない文字なんですか。その理由を教えてください。

ヒトのゲノムの文字数は約 31 億文字で、カブトムシのゲノムの文字数は約 6.4 億文字と 5 倍程度異なります。しかし、遺伝子数はヒトが約 20000 遺伝子、カブトムシが約 16000 遺伝子とゲノムの文字数ほど違いがありません。つまり、ヒトはゲノム中の遺伝子がある場所以外の領域が多いことで、ゲノムの文字数がカブトムシの5 倍程多くなっていると推測されます。近年の研究では、この遺伝子がある場所以外の領域も重要な役割を持っていることが知られています。ちなみに、ミジンコのゲノムサイズは 200 Mb 程度とヒトやカブトムシと比べて小さいですが、遺伝子数は約 30000 遺伝子と多いことが知られており、ゲノムサイズが大きいと遺伝子数が多くなるとは限りません。

★質問5. カブトムシの遺伝子はどのように操作しているのでしょうか。

主に RNA 干渉法という方法で、遺伝子の働きを抑えています。講義では、DNA から mRNA が転写され、mRNA からタンパク質が翻訳され、このタンパク質がいろいろな働きをすると説明したかと思います。RNA 干渉法は、このプロセスの mRNA の量を減らすことで、最終的に働くことができるタンパク質の量を減少させています。タンパク質の量が減ると、その遺伝子は十分に働くことができなくなります。例えば、A という遺伝子 (遺伝子A) の mRNA 量をRNA 干渉法で減らした時に、カブトムシの頭部の角の枝分かれがなくなってしまったとします。この時、遺伝子A の働きは RNA 干渉法によって十分に働くことができていない状態です。つまり、普段遺伝子A は頭部の角の枝分かれを作っていることになります。従って 、遺伝子A の役割は、頭部の角の枝分かれを作っていると推測できます。

★質問6. なぜ、カブトムシの幼虫は白いのに、成虫になるとこげ茶色になるのでしょうか。

面白い質問ですね。カブトムシの幼虫の体の色は体の中身が透けたものです。お尻の方をみると黒っぽくなっていると思いますが、これはカブトムシが食べた土 (後腸) が透けて見えています。カブトムシの成虫の体の色は講義でも説明した外骨格の色です。また、カブトムシの幼虫と成虫の違いは、色だけでなく硬さも違うと思います。幼虫は柔らかく成虫は硬いです。カブトムシの仲間 (甲虫) では体の色と硬さは、密接に関与していることが知られています。

★質問7. 森田先生はどうしてカブトムシの研究をしようと思ったのでしょうか。

最初にカブトムシの研究をしようと持った理由は、どうやってカブトムシは角を獲得し、どのようにして角が形成されるのかと気になったからです。また、他の質問でもでできた、RNA 干渉法という遺伝子の働きを調べることが可能な方法があったことも大きな要因の1つでした。私がカブトムシの角の研究を始めた時は、カブトムシの角形成に関与する遺伝子は数個しかわかっていませんでした。身近な昆虫であるカブトムシですが、角形成にかんしてはほとんど何もわかっていない状態でしたので、非常にやりがいがあると考えました。

★質問8. これからはどんな研究をしていきたいですか。また、それをどのようなことに発展しつなげていきたいですか。

夢はカブトムシの角の全てのことについて知りたいですね! 私の研究人生では到底解明できないと思うので、皆さんの中でカブトムシの角に興味を持って、研究者になりたいと思ってくれた方にこの夢を引き継いでもらいたいですね。発展については、私の研究を通して、生物学の大きな問題である「新しい形質がどのような方法でできるのか!?」というの疑問解明の一助になればと考えております。また、今回の講演では発表しませんでしたが食料問題についても研究を行なっております。カブトムシと食料問題、関連がなさそうですが実は、、、!? この研究を通して、食料問題の解決にも役立てばと考えております。

★質問9. 先生は、興味が無い事、嫌いな事をどのように調べたり、考えたりしていますか。

興味がないこと、嫌いなことはやる気が出ずに、どうしてもやりたくなくなってしまうと思います。私が学生の頃は、数学、化学や物理がすごく好きで多くの専門書や雑誌を読んでいました。一方で、国語は全く興味がなく、あまり好きではありませんでした。現在の仕事 (カブトムシの研究) と国語は一見関係ないように思われます。しかし、研究者はすごい量の書類を書きますし、今回の講義のように多くの人に自身の研究内容を伝える機会があります。わかりやすい文章の作製や、物事をわかりやすく伝えるためには国語の力が不可欠です。現在、小・中・高で習う基本的なことは、直接的・間接的に何事もすべてつながっていると痛感しています。好きなことを行なうためには、好きなことだけではなく多くのことを学ばなければなりません。これは研究者に限らずどのような仕事でも言えるのではないでしょうか。興味がないことや嫌いなことも、興味があること好きなことに繋がると考えれば、やる気も出てくると思います。

★質問10. 1つの疑問の結果を出すのに、どの位の時間がかかるのでしょうか。

どのような疑問かにもよると思いますが、大きな疑問を解き明かすためには小さな疑問をいくつも解き明かす必要があります。私達は、日々小さな疑問の答えを積み重ね、大きな疑問の解明に取り組んでいます。どの位の時間がかかるのかという質問の回答としては、数時間でわかるものから数十年かかる場合もあります。研究者の中には、自身の研究人生全てを捧げて疑問の解明に取り組んでいる方もいます。そのような魅力的な疑問に出会えることは幸運なことですね。

森田先生、お忙しい中、ありがとうございました!