2月5日に開催された「第5回講義」は、株式会社TBSテレビより、前TBS北京支局長 井上 波先生による「海外で活やくする報道記者が見る、世界の人々のくらし ~近くて遠い国『北朝鮮』取材記~」でした。

講義の前には、いつものようにHRから開始です!
神賀くんによる「ニュースを見てますか?」からスタート!トンガでの大規模噴火のことや、日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)滞在の話などを、クイズを交えて解説しながら、社会の学びを行いました。ライブ視聴をしている学生の皆さんも、コメント機能を使って、積極的にクイズに参加してくれるなど、楽しいHRとなりました。
引き続き、ニュースを見ることを習慣化しつつ、内容を読み解く力を育んでほしいです。

さて、いよいよ本講義がスタート!
井上 波 先生は、TBSに入社後、カメラマンから、記者として、当時黒人初のアメリカ大統領となったオバマ大統領の取材や、北京支局長として中国や北朝鮮に関する報道されてきた報道のスペシャリストです。

TBSの会社の中でも、実際に北朝鮮に取材に訪れたことがある人は非常に数少ない中、これまで6度に渡って現地を訪れて取材された井上先生が、ご自身の目で見てきたことを伺える非常に貴重な機会となりました。

北朝鮮は、近隣国でありながら、日本と国交がなく、なかなか訪問することもできないので、非常に情報が少ないですが、そんな北朝鮮について知る方法を教えていただきました。

1つ目は、北朝鮮の国営メディアや新聞を見ること。
私たちはインターネットを通じてこれらを簡単に見ることができますがその一方で、北朝鮮政府が掲載する情報を決定できるため真実なのかどうかを考える必要性があります。
2つ目は、他国が発信している情報を見ること。
中国やロシアなどの大使館や、衛星を飛ばして監視している韓国やアメリカなど、多くの国が北朝鮮に関する情報を発信しています。
3つ目は、北朝鮮内部からの隠し撮り映像を見ること。
北朝鮮にとっての「不都合な真実」を見ることができますが、これは命がけで得る情報であり、とても貴重な情報だそうです。
そして、4つ目は自分の目で見て、伝えること。

私たち日本人が北朝鮮に入国するには、中国を経由し特別なビザをとる必要がありますが、間接的に情報を通じて知るよりも直接自分の目でみて判断することが大切だと教えていただきました。

まさに、自分の目で見て、伝えることをされてきた、井上先生。
講義の後半では、現地で取材をした際に実際にテレビのニュースや番組内で放映された映像をいくつか見せていただきながら、取材がどういった様子なのかを学びました。
目の前にいる先生が、テレビの中で海外からリポートしている映像の様子に、子どもたちも興味津々です。

北朝鮮で取材をする際は、自由に行動できるわけではなく、非常に管理された中での取材になるそうです。
案内役兼通訳兼監視員が常に一緒に行動し、カメラを回している時も必ず後ろで監視される他、重要な式典の様子を取材したくても、関係のない工場に案内されたり、取材の予定が急遽変更されたりするなど、思い通りに行かないことが多いとのこと。先生はこれらの理由として、北朝鮮が他国からの攻撃を恐れているのだろうとおっしゃいました。

しかし、取材をする中で得られるものは、北朝鮮に対するミサイルなどの恐ろしいイメージだけではないとのこと。
取材期間中は、食事の際も案内役の方も同席しますが、会話を繰り返していく中で次第に仲を深めることもできます。お互いの家族について話したり、ホテルでカラオケや卓球をともに楽しむこともあり、同じ人間として交流を深めることが出来るそうです。
「案内役兼通訳兼監視員」と聞くと、監視されている少し怖いイメージでしたが、一人の人間としての同じ感覚なんだなと、安心するエピソードでした。やはり、コミュニケーションは大切ですね。

しかも、訪問回数と時間をかけて交流を深めたことで、「普通の国民の暮らしを取材させてほしい」という要求が通ったことがあるのだそうです。
普通の人の暮らしとは少し違いますが、北朝鮮のオリンピック金メダリストの生活を、実際に取材されていました。
その取材時の映像からは、姉妹仲良く、家族と団らんし、客人とともにテーブルを囲んで、和やかに笑顔で話をする、国に対する怖いイメージからはかけ離れた、私たちと同じような日常の様子がうかがえました。

北朝鮮は、その政治的意図から、海外からの取材に対して、見せたいもの・見せることがあり、かなり制限されている情報が目立ちます。しかしそれが全てではなく、取材を通して様々な人の生活を知ることができます。
井上先生ご自身、幾度に渡る北朝鮮での取材の中で、新型コロナの世界的流行直前の最後の取材となった、この北朝鮮の日常の生活に触れた取材が、一番印象的なものとなったようです。

井上先生は、「大事なこと」として、「北朝鮮、主に平壌のいろいろなことを見てきたが、それが全てではなく、現在、コロナ禍で北朝鮮が閉鎖され、情報がさらにあまりでなくなっている中でも、人々の暮らしは続いており、我々「国際社会の目」が北朝鮮の人々を守ることになるので、「注目し続けること」が大切です。」とお話しされました。

そして、子どもたちに対して、「ひとつのニュースだけを信じるのではなく様々な情報を“自分で”集めて、世界の国々についてなるべくたくさんのことを知ってほしい。世界にはまだまだ面白いことがたくさんあるよ。」というメッセージを、
また、大人に対して、「子どもたちが、自分の目や耳を使って情報を集められる機会を作ってあげること、そして、そのニュースについて、自分がどう考えるか、ぜひ日常的に議論をしてほしいです。」とメッセージをいただきました。

講義後は、いつも通り、「バーチャル現地受講」の時間を設け、希望者はZoomにつないで、実際に井上先生に質問タイム。もちろんコメント上でも質問が殺到し、止まりませんでした。
政治的なことについて、平壌の街の様子について、平壌から離れた田舎の様子について、取材について、様々な質問が出る中、最後の質問は、「北朝鮮へ向かう飛行機での機内食」について!
機内食では、決まって「ハンバーガー」が出るそうなのですが、「何の肉を使ってるのかは不明、、、だけど、『おいしい!』」とのことでした!

講義の初めは、最近の動向から、子どもたちも、「北朝鮮=『ロケット!』『怖い!』」という一元的な印象が強かったようですが、北朝鮮を自分の目で実際に見てきた井上先生の貴重なお話を伺うことで、政治的な思惑は少し横に置きつつ、そこにある私たちと同じような日常を垣間見る中で、北朝鮮という国について、より知ることができ、印象の変化を感じたように思います。

井上先生、ありがとうございました!

次回は、早くも第8期の最終講義です。
2022年3月5日(土)、ソニー株式会社 R&Dセンターより、シニアインタラクションリサーチャーの齋藤 真里 先生にお越しいただきます。
テーマは、「AIが苦手なこと、人が苦手なこと ~AIとヒトが助け合う未来~」
「AI」が続々活用される中、非常に興味深いテーマです。

ぜひお楽しみに!