【第9期 第1回講義】
「変わるまち、続くまち ~カーボンニュートラルと都市計画~」

国立環境研究所 社会システム領域 地域計画研究室
室長 松橋 啓介 先生

お待たせいたしました!
2022年6月18日に実施した「第1回講義」にご登壇いただいた、国立環境研究所 社会システム領域 地域計画研究室 室長 松橋 啓介 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
学生の子どもたちから、感想を含めいろいろな質問がある中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしています。
松橋先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!


【国立環境研究所 社会システム領域 地域計画研究室 松橋 啓介先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1. 将来まちづくりに関する仕事をしたいと考えているのですが、今どのような勉強をすれば良いのでしょうか(小中学校、科目など)。
また、まちづくりに関する仕事は先生のような研究者以外にどのようなものがあるのですか。

いろいろな科目にきょうみを持って勉強できると良いです。学校の科目でいうと、社会や総合学習がもっとも近いかもしれません。
他にも、データを使って分析したりグラフを描いたりするための算数、自然にあったまちづくりをするための理科、文章で伝えたり昔のまちづくりを調べるための国語、デザインをするための図工、スポーツが盛んなまちづくりをするための体育、外国のまちづくりを調べたり世界で仕事をするための英語や外国語など、いろいろな知識が役に立ちます。
もちろん、自分一人で全部を完璧にできなくても大丈夫です。大きな仕事をなしとげるためにはみんなで力を合わせるチームワークが大事になります。そのために、クラブ活動や係の仕事をしっかりすることも学校生活ではとても大切だと思います。
まちづくりに関わる仕事はたくさんあります。わたしが就職活動のときに訪問したところから紹介すると、ルールをつくったりお金を支援したりする国や県や市などの役所、実際に建設をする会社、設計を専門にする会社、大きな土地を持って開発をする不動産などの会社、開発などのお金を集めたり貸したりする金融などの会社、まちの開発や使い方のお手伝いをするコンサルタントなどの会社です。最近ではデータを使ったまちづくりをするためにIT企業のかかわりも増えているように感じます。

★質問2. 区画整理や再開発というのは、具体的にどのようなことをするのですか。

区画整理(土地区画整理事業)では、地域の人たちが話し合い、少しずつ土地を出し合って道路や公園などの土地をうみだし、住みよいまちづくりを行います。
再開発(市街地再開発事業)では、地域の人たちが話し合い、複数の土地をまとめて一体的に建て替えをすることで、住みよいまちづくりを行います。

くわしく知りたいときに参考になるページ:
・日本都市技術株式会社「区画整理とは」
http://www.cticd.co.jp/contents/kukakuseiri_toha.html

・UR都市機構「土地区画整理事業」
https://www.ur-net.go.jp/produce/business/business01.html

・一般社団法人再開発コーディネーター協会「都市再開発とは」
https://www.urca.or.jp/coordinator/redevelop.html

★質問3. 私の住む水戸市では、空き家が増えている反面、新たに林などを切り開いて住宅地を作っています。自然が失われて悲しい気持ちになるし、資源の無駄使いなのではないかと思ってしまいます。このまちづくりについてどのように思いますか。
また、今後の水戸市のまちづくりはどのように進めていくべきと思いますか。

質問のとおり、土地はまちづくりにとって大事な資源なので、使い捨てにならないように、大切に使うことができると良いと考えます。
今後のまちづくりは、子どもたちが住みつづけたいと思えるように、いろいろな意見を聞いて、進めていくことが望ましいと考えます。

★質問4. 私は、みんなが楽しめる街づくりをしたいと思っています。松橋先生はどんな街づくりがしてみたいですか。

わたしも、みんなが楽しめるまちづくりができると良いと思います。楽しめるまちが長く続くように、人口減少やカーボンニュートラルにも対応していけるまちが増えるように、ひきつづき仕事をがんばります。

★質問5. 学校や私たち個人でもできるカーボンニュートラルはありますか。また、松橋先生が普段から行っていることはありますか。

冷房を使うときを例にすると、カーテンを閉める、着るもので調整するという毎日のことから、窓を二重にするという長い目でみた工夫までいろいろあります。
他にも、カーボンニュートラルの取り組みが得になるようなしくみに変えるため、そういう提案をしたり(夏休みの自由研究とか)、伝えたり(SNSでつぶやいたり)、応援したり(「いいね」を付けるとか)することも、みなさんひとりひとりが普段からできることです。
私自身は、自宅に内窓をつけることはできていません(職場の窓に断熱シートを貼ったりはしています)が、その他は上に書いた通りのことをできるだけやっています。

交通のカーボンニュートラルの場合に参考になるページ:
・ココが知りたい地球温暖化「Q9車のかしこい使い方」
https://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/15/15-2/qa_15-2-j.html

★質問6. 私の家はつくば駅前で便利なところですが、どんどん大規模マンションだらけになってきています。そのため、自分の住んでいるマンションが将来ゴーストタウンにならないか不安です。
マンションがゴーストタウンになることはありますか。また、ゴーストタウン化はどうしたら防げるでしょうか。

マンションも、使わなくなったときに、貸したり売ったりできないと、住む人がどんどんいなくなって、ゴーストタウン化します。年数がたっても、住みつづけられるように、また使わなくなったときには貸したり売ったりできるように、建物全体をきれいに使ったり、修理したりすることが役に立ちます。
ただし、日本全体で人口が減っていくことが予想されているので、マンションの周辺が、カーボンニュートラルに対応した住みよいまちであり続けることも重要です。

★質問7. ゴーストタウンにならないようにするには、土地特有の観光地にすると良いと言っていましたが、その土地に住む人が少ない場合は難しいと思います。その場合はどうすると良いですか。何か解決法を教えてください。

日本国内の多くの地域では、住む人がきわめて少なくなってしまう可能性が高いです。土地に特有の景色や歴史や食べ物などの資源がある場合には、ゴーストタウンを避けることができる可能性が少し上がると考えます。そうしたものがない場合には、みなさんの感想でも多く提案されているように「もとの自然に戻す」ことを考えても良いのではないかと思います。
ただし、放っておくだけだと、人や環境に害を及ぼすおそれがあるため、立ち入り禁止にしたり適切に処理したりする必要があります。

★質問8. 先生のキャリア選択について、バックグラウンドのことも含めてもう少し詳しく聞きたいです。将来の夢を見つける上での参考にさせてください。

簡単に経歴を書きました。
・中学2年:まちづくりに関心を持ち、志望学科を決めた。
・高校1年:親の転勤に伴い、都立高校に編入学(4月)した。
・大学:志望通り東京大学の都市工学科に進学。都市計画を学んだ。
・大学院修士課程:就職活動や国家公務員試験も受けたが、修士進学を選択。環境問題にも関心を広げた。
・国立環境研究所:大学院に講義に来られた国環研の研究者に刺激を受け、自分ならではの仕事ができそうな場所として選択。働きながら博士号を取得した。環境の視点からみたまちづくりを考えることに主に従事している。得られた成果は、論文や本を書いたり、大学の講義や国や自治体の委員会で伝えたりして、広めるようにしている。

★質問9. 松橋先生が現在行っていらっしゃる研究内容を具体的に教えてください。

いまは、くじ引きで選ばれた市民が話しあってカーボンニュートラルのまちを提案する「気候市民会議」に関心があって、2021年には川崎市での取り組みを主催しました。社会のみんなにとって受け入れやすいカーボンニュートラルの実現策を見つけ出すため方法として注目しています。
国環研ニュース41-3(2022年8月)号に少し詳しく記事を書きました。

★質問10.どうして地球温暖化をここまでの問題にしてしまったのでしょうか。もっと昔から対策することはできなかったのでしょうか。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が科学的知見をとりまとめ、各国の地球温暖化防止策に科学的な基礎を与える仕事をしてきました。
1990年から5~6年おきに報告書が出され、人間活動が温暖化の主たる原因であること、甚大な影響を避けるためには早期にカーボンニュートラルが必要になること、それらの知見の確実性は増していることなどを指摘してきました。
対策が十分に早くなかった理由としては、次のようなことが考えられます。
1)影響や原因や対策にまだはっきりしていないところがあった。
2)多くの人々に重大な問題だと認識されていなかった。
3)対策で生活が変わることが損になると考える人々の反対が強い。
しかし、1)の科学的知見がはっきりしてきたことから、2015年のパリ協定採択のあとは、2)気候危機が多くの人々に認識され、3)カーボンニュートラルに対応しないと生き残れない(対策した方が得になる)と企業が考えるようになったため、急速に対策が進もうとしていると認識しています。

松橋先生、お忙しい中ご回答いただきまして、ありがとうございました!