8月9日(火)に「夏の特別講座2022」を実施しました。
第9期の特別講座は、東京・上野の「国立科学博物館」から、クジラについての特別講義!現地から生中継でした。

講師は、海獣学者・田島木綿子先生です。田島先生は、海棲哺乳類学、比較解剖学を専門とし、クジラの解剖などを通して海洋生物の研究をされています。そして「海獣学者、クジラを解剖する。」の著者でもあります!

現地には、抽選で当選した5名の親子が現地受講となりました。(※感染症対策の関係上、少ない人数となることをご了承ください)挨拶をした後に、その学生の5名と保護者の方々を連れて館内ツアーから開始!

フロアの天井から吊るされているマッコウクジラの半身模型付き全身骨格標本の下から始まり、クジラの目や耳の位置など標本の各所を解説をして頂きました。クジラの耳には耳たぶがなく、小さな穴が開いているだけで、目の近くにあります。また、マッコウクジラの半身模型では、頭部には複数の傷が見られていて、中でもマッコウクジラの主食であるダイオウイカを捕食した時抵抗してついた直径28ミリメートルにも及ぶ吸盤のあとなどが再現されています。学生たちは体長14mもあるクジラ標本の大きさに驚きつつも、田島先生の解説に聞き入っていました。

続いて、陸上の哺乳類について、骨格標本の展示をクジラの骨格、ゾウ、キリンの骨格と比較して解説へ!海中で生活をするクジラと陸上の哺乳類でも、肋骨の位置が同じ場所にあり、これにより肺呼吸をしていることがわかります。首の骨に注目してみると、形状や大きさは種によってさまざまですが、哺乳類であれば数は全て7本であることに驚いていたのが印象的です。

骨格標本に続いて、陸棲哺乳類の胃腸など臓器の展示に移りました。
まず、ウシとライオンの内臓を比較し、肉食動物、草食動物のそれぞれの胃の特徴を見ていきます。本来ならば、哺乳類は草を消化できない体ですが、肉食動物は自身の分泌する消化酵素によって、草食動物は胃や腸のなかに草を分解してくれる微生物を飼うことによって草や野菜を食べることを可能にしています。その中でも、ウシなどの一部の草食動物は反芻(はんすう)といって、一度飲み込んだ草を胃から口の中に戻し、咀嚼(そしゃく)した後、また飲み込むという行動をするため、胃が複数の部屋に分かれる複胃という胃を持っているそうです。

しかし、肉食動物であるマッコウクジラも、実は複胃をもっているとのこと!クジラは肉食動物のため反芻を行わないため、その原因は未だ謎のままです。さらに驚くことに、クジラの胃腸にはたくさんの寄生虫が寄生しているそうです。人間にも被害を起こすことで有名なアニサキスは、小魚には一時的に寄生し、クジラを最後の宿主として目当てにしているそうです。最後の宿主であるクジラには悪さをせず、これにより体調を崩すこともありません。体の大きなクジラを通すことで様々な生き物の秘密を知ることができました。

その後も、館内ツアーのなかで、哺乳類の生態やクジラの体の特徴を骨格標本を用いて詳しくわかりやすいように解説をいただきました。哺乳類は、魚類など他の動物と違って、母親の胎内で少数の子供を育て、出産した後も子供の世話をします。その生態のおかげで哺乳類は確実に種を繁栄させることができ、地球上でも強い力を持っているのではないかと考えられています。
 これらの共通点、相違点について田島先生は、哺乳類のいいところは自分たちで比較できるところだという風に仰っていました。また田島先生は館内ツアーにおいて、頻繁に学生とやりとりをしてくださり、学生が挙手をして質問するといった光景がよく見られました。

前半の館内ツアーが終了すると、スライドを使用した座学での講義です。
まず、館内ツアーでも見た展示されているマッコウクジラの半身模型付き骨格標本の説明をしていただきました。現在、国立科学博物館に展示されているマッコウクジラは、世界で初めてのマッコウクジラの標本で、2005年に鹿児島県の海岸に生きて打ち上げられた本物のクジラです。

打ち上げられてすぐに救護されたのですが、残念ながら亡くなってしまったため、2009年3月より本格的な研究が実施されています。その後、2013年には上半身だけが完成し、特別展にて展示されました。2021年3月には、上半身と下半身の両方が完成し、科学博物館の常設展示設に設置がされました。このマッコウクジラの正確な大きさは13.77mで、オスのこの種としては、そこまで大きくないそうです。想像もつかないことですが、マッコウクジラの成熟したオスは18mにまで大きくなるとのこと。

実際のマッコウクジラになるべく近づけるため、耳の穴や目、ヘソ、肛門などの細かな器官や、他の生き物との戦いでついたであろうリアルな傷など、細かく再現をされたそうです。マッコウクジラの頭骨は左右非対称であり、ハクジラ類の他の種のクジラと違って鼻の頭が左前にあり、上顎の歯はないなどマッコウクジラの特異的な生態についてお話しいただきました。館内ツアーで説明があった首の骨は、哺乳類ではどの生き物でも7つですが、一見すると分かりません。このように、見た目や機能が違っても骨でみると同じ仲間である事を系統といいます。現在の研究では、クジラなど海にすむ哺乳類は、陸上生活から海に戻ったと考えられています。これらの生物を研究することで、私たち陸上にすむ哺乳類についても知ることができるそうです。

最後に先生は、海に棲む哺乳類にとってプラスチックごみが深刻な課題であり、クジラが打ちあがってしまう原因の1つになっていると教えてくださいました。海に流れたゴミをイルカが間違って食べてしまったり、マイクロプラスチックがクジラの胃から発見されたりしているという現状は、私たち1人1人も考える必要があります。「捨てない」だけではなく、街で落ちているプラスチックごみを拾ったり、プラスチックごみとなるモノを買わないようにするなど、行動に移す必要が重要ですね!第8期の国立環境研究所・稲葉先生の講義でも学んだ「ライフサイクルアセスメント」と繋がったと思います。



講義終了後、終了時間まで質疑応答を実施!ものすごい数の質問を、一つひとつ丁寧に答えてくれました。クジラだけではなく、哺乳類や海について知ると共にこれからの人間の在り方について考えさせられる講義でした。田島先生、本当にありがとうございました。

第3回講義は「10月15日(土)」!!
株式会社ikura 代表取締役・中澤 英子先生による「より良い世界を創るために今からできる8つのこと〜今日から磨けるスキルとマインドセットについて学ぼう〜」です。お楽しみに♪