strong>【第9期 第4回講義】
「“におい”の正体(しょうたい)って何だ!?
~嗅覚(きゅうかく)について学ぼう~」

筑波大学
人間系 教授 綾部 早穂 先生

お待たせいたしました!
2022年11月5日に実施した「第4回講義」にご登壇いただいた、筑波大学 人間系 教授 綾部 早穂 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
学生の子どもたちから、感想を含めいろいろな質問がある中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしています。
綾部先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!


【筑波大学 人間系 教授 綾部早穂 先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1.「似ている」と思うにおいは、ニオイ分子や受容体が同じだったり似ていたりするのでしょうか。

「似ている」においは、におい分子(におい物質)の形や物理的特徴が似ていて同じ受容体に取り込まれることもあります。ただ、におい分子の形や物理的特徴はほぼ同じ(たとえば、光学異性体)でも全くちがうにおいがするものもあります。
また、普段私たちがにおいをして感じるものは様々なにおい分子の集合体ですので、共通のにおい分子が多く含まれれば、似ていると感じることは多いと思います。ただ、りんごとバナナのにおいのようにあまり共通のにおい分子がなくても、「果物のにおい」として似ていると感じるようなこともあります。

★質問2. 全てのものに匂い分子はあるのでしょうか。

その「もの」からにおい分子(におい物質)が揮発することが可能で、空中を漂って、私たちの鼻の中に入って、嗅覚受容体に取り込まれることができれば、「においがする」ことになります。においがするかしないかは、私たちが鼻で、その「もの」から揮発(飛んでくる)してくるにおい分子を感じるか感じないかで決まります。

★質問3. 匂いの分子さえあれば、どのような匂いも再現することができるのでしょうか。

におい分子(におい物質)が「そろえば」どのようなにおいも再現できるとは思います。ただ、その分子が空気中を浮遊する条件(温度や湿度)によって私たちの鼻の中に入ってくる状態が変わると、においの感じ方は変わるかもしれませんので、再現はなかなかに難しいかもしれません。

★質問4. 嗅覚はその他の五感とどのように関わっているのでしょうか。

味覚には嗅覚が大きくかかわっていると思います。鼻をつまんで食べると味がしないように感じますよね。私たちが普段は「味」だと思っているものは、においと味の両方を一緒に感じる「味」であることが多いです。(31種類のアイスも鼻をつまんで食べるとその違いは10種類くらいかもしれません。)
ただ、嗅覚が視覚や聴覚に影響を及ぼすことは少ないように思います。(その逆はたくさんあるかもしれません。黄色はバナナのにおいをイメージさせます。)

★質問5.嗅覚は遺伝子の要素が強いとのことでしたが、人種や動物種などによって大きな差があるのでしょうか。
また、具体的に何が異なるのでしょうか(数、種類、閾値など)。
さらに、周辺環境などによって最適化された嗅覚を獲得していくことはあるのでしょうか。

嗅覚は遺伝子の要素が強い、というよりも、人間の遺伝子の中で嗅覚受容体を決定する遺伝子の割合が高いという意味です。人間と動物種では受容体の数にはかなりの違いがあることは説明した通りです。種類に関しては共通なものは多いと思いますが、具体的には(私には)よくわかりません。環境によって最適化していくとは思います(たとえば、紹介したサメやクジラなど)

★質問6. 新型コロナウイルスの後遺症で嗅覚を失うことがあるとのことですが、具体的にどんな影響で嗅覚を失うのでしょうか。

受容体や嗅細胞や嗅神経へのウイルスによるダメージです。嗅覚情報処理に関連する脳の部位のダメージの場合もあるようです。症状も様々で、それぞれの詳細な発生機序はまだ明確にはなっていないようです。

★質問7. 匂いを感じるのは脳のどこの部分なのでしょうか。特定の分野のみで匂いの情報は処理されるのでしょうか。

まず嗅覚神経系からの情報は「嗅球」という場所に伝達されます。そこから、外側嗅索、前嗅核、嗅結節、前梨状皮質、後梨状皮質、扁桃体、内嗅皮と伝達され、梨状皮質や扁桃体から眼窩前頭葉で情報処理されます。においの記憶は海馬にもありますし、眼窩前頭葉以降は、嗅覚系だけではない様々な感覚系の情報を連合する脳部位での処理がされます。

★質問8.においと同じ信号の電流を流せばにおいがするのでしょうか。それによって匂いを操ることも可能でしょうか。

「においと同じ信号」というよりも、嗅覚神経系に電気的刺激を与えればにおいの感覚を生じさせることは可能かもしれません。他の感覚系でもそのような研究が進んでいますので、嗅覚系でも将来的には可能性があります。嗅覚の記憶が保存されている場所を刺激することでにおいの感覚が生起するかもしれません。

★質問9.癒し効果のある香水や柔軟剤がよくありますが、あれらは多くの人が好きだなと感じるにおいを使っているから効果があるのですか。

癒し効果がある、というのは使った人が「癒されるな~」と感じるかどうかで、いくら癒し効果がありますと言われても、そう感じない人もきっといますよね。全員が好きで、癒されるにおいというのはなかなか見つからないので、できるだけ「多く」の人が好きで、いいな~と思う香りを癒し効果のあるにおいとして使っていると思います。

★質問10.嗅いだ匂いが鼻に残るというのはどのような仕組みなのですか。

単純に言えば、におい分子が鼻の中に残っているということです。ただ、残っていなくても、そのにおいが感じるような気がする、ということもあります。

綾部先生、お忙し中、ありがとうございました!!!