第9期第4回講義は、「“におい”の正体(しょうたい)って何だ!?~嗅覚(きゅうかく)について学ぼう~」というテーマで、筑波大学人間系教授の綾部早穂先生と小川先生にご登壇頂きました。年内最後の講義となった今回の第4回講義では、実際に調味料を使って匂いについて学ぶワークショップが行われ、学生たちが楽しそうに取り組みながら学ぶ姿が見られました。自分の鼻で実際ににおいを感じながら講義に取り組むことができるため、より一層理解度が深められ、学生にとってとても魅力的な講義となりました。

講義ではまず、においに関連する漢字、嗅覚の「嗅」と「におい」という言葉の成り立ちから学びました。「嗅」という字は、犬が鼻でにおいを嗅ぐことが元となり、「犬」という字と、鼻の漢字を簡単にした「口」と「自」が合わさってできました。その漢字の書き方がさらに簡単になったものが漢字の「臭」です。

では、「におい」という言葉はどのようにして生まれたのでしょうか。元々は、「丹穂ふ」と書いて赤い色が素晴らしいという意味でした。その言葉が花に対して用いられるようになり、そこから花の香りが素晴らしいという意味に変化し、現在のにおいという言葉になったと言われています。

今回の講義を聴く上では欠かせない、「におい」という言葉の成り立ちについて学べたところで、先生から、「身の回りのにおいを見つけてみましょう。」と声かけがありました。学生たちは、自分の家の洗面所や寝室、食事をする部屋からどんなにおいがするのかを実際に自分の鼻を使って探し、そのにおいが好きか嫌いか、そしてその理由を考えました。綾部先生によると、においは感情とも関係しているため、好きなもののにおいであると良いにおいだと感じることがあるそうです。例えば、愛犬のにおいも実際には良いにおいでなくても、自分の愛着があることで良いにおいに感じるということでした。

そして次に、今回の講義テーマの答えともなる、においの正体について教えていただきました。においの正体は、においのするものから飛んでくる「におい分子」です。においのするものが特有のにおい分子を持っている訳ではなく、たくさんの種類の「におい分子」がまとまって鼻に入ることで、それを固有のもののにおいとして認識します。例えば、納豆の強いにおいは約80種類のにおい分子からできていて、それが混ざって鼻の中に入ると、納豆のにおいだと感知します。世の中には何万種類ものにおい分子が存在していますが、私たち人間が感じとれるのはほんの一部だそうです。

そんなにおい分子ですが、私たちの鼻に入ってくる経路は二つあります。一つは、鼻から息を吸いこんだときの通り道です。これを、オルソネイザルと言います。一見、人は息を吸ってにおいを感じているように思いますが、実はもう一つ通り道があります。それがレトロネイザルです。これは、息を吐いたときににおいを感じる通り道です。そこで、実際にこのレトロネイザルを体感するために、学生たちには、準備してきた飴を舐めるように指示が出されました。その状態で、口を閉じたまま息を吐きます。すると、息を吸うときには感じなかった飴のにおいがして、レトロネイザルを感じることができました。

では、このとき私たちはどのようににおいを感じているのでしょうか。先生は、鼻の構造のイラストを用いながら説明してくださいました。まず、鼻の穴の奥に嗅上皮というものがあります。この嗅上皮は潤っている必要があるため、ボーマン腺というところから、粘液が常に出ています。におい分子はここにたどり着くのですが、そこには嗅せんもうという毛があり、それににおい分子が付着します。におい分子は化学物質なので、人がにおいを知覚するには、これを電気信号に変えなければなりません。嗅細胞が反応しにおい分子が電気信号に変えられると、これが脳に送られます。この嗅細胞は目の細胞などとは違って一ヶ月で細胞が生まれ変わるそうです。凄いですね!

そして先生は、におい分子がくっつく様子をカギとカギ穴に例えて説明しました。世界に何万種類とあるにおい分子は、カギです。そして、嗅せんもうの先にある、におい分子を受け取るカギ穴が、受容体です。カギがカギ穴にぴったりはまったとき、におい分子は電気信号に変わります。また、この受容体ですが、遺伝子によって種類や数が違ってきます。人間には、受容体を作るための遺伝子が396個あります。アフリカゾウは1948個と多いですが、逆にハクジラ亜目は0個です。犬はにおいに敏感だと言われますが、これは人間と比べてカギ穴の種類も数も多いことから、このようになります。

さらに先生は、電気信号がどのように脳に伝わるのかについて、詳しい説明をしてくださいました。私たちの目の奥の方には、脳を下から支える篩骨という骨があります。嗅細胞から脳に電気信号が行く際、この骨の間を通っていくのですが、ここで、2つ危険なことがあります。1つ目は、頭を強く打ったときなどに、脳が動いてしまうことで篩骨の間を通る神経が伸びてしまい、電気信号が正確に伝わらなくなってしまうことです。それにより、嗅覚障害が起こることがあります。2つ目は、なにか細長いものが鼻や喉から奥に入ってしまうと、篩骨を破って脳に刺さってしまうということです。鼻の穴は脳にとても近いので、気をつけて扱っていかなければならないとのことでした。

後半講義は、匂いを判断するワークショップからスタートです。その内容は、各家庭で用意してきた調味料を綿棒につけて、アルミホイルで包み、それらをシャッフルして、目を閉じた状態でどの匂いか当てよう、というものでした。このワークショップの目的は、目を閉じた状態で匂いを嗅ぎ分けることがいかに難しいかを知るということです。学生たちは実際に用意してきた調味料を使って、楽しそうにワークショップに参加していました。家でより多くの種類を用意して、家族でゲーム感覚で楽しんでみるのも良いかもしれません。

学生たちが鼻だけを使ってにおいを嗅ぎ分けることの難しさを体験したところで、綾部先生により、その例を示すある実験の紹介がありました。その実験とは、相手が瓶の中に何が入っているかわからない状態で、瓶の中にりんごを入れ、匂いを嗅がせ、その食べ物を当てさせるというものです。この時、ほとんどの人が「りんご」だと答えられないそうです。さらに、黄色い布などを瓶の中からちらっと見せると、今度はそれを「バナナだ!」と思い込んでしまいます。このことから、いかに私たちが、視覚などさまざまな情報に頼ってものを知覚したり判断しているかが分かります。さらに、においは言葉やオノマトペ、日常的な接触や経験によっても左右されます。他からの情報によっていとも簡単に変わってしまう嗅覚、とても興味深く面白いですね。

講義の最後には、匂いへの気づきやすさや関心度を測る20問の調査にも取り組みました。1〜5の5段階評価で匂いへの関心度を調査しましたが、結果は学生同士の中でも多様であり、人によって匂いへの敏感さには違いがあることも学ぶことが出来ました。

普段何気なく感じているにおいですが、改めてその仕組みを知ろうとするとまだまだ奥深いことばかりでした。学生の皆さんの「もっと知りたい!」という気持ちを刺激する、とても意義のある第4回講義でした。綾部先生、小川先生、ありがとうございました!


※今回は「におい」を体で表現したポーズです。

次回は、2023年2月4日(土)に実施します。
気象予報士・佐々木恭子先生による「雲が教えてくれること~楽しみながら学ぶ気象と防災~」です。お楽しみに♪