【第9期 夏の特別講義】
「ナイトミュージアム2022 オンラインで夜の科博を楽しもう!~クジラについて知る~」

国立科学博物館
海獣学者 田島 木綿子 先生

お待たせいたしました!
2022年8月9日に実施した「夏の特別講義」にご登壇いただいた、国立科学博物館 海獣学者 田島 木綿子 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
学生の子どもたちから、感想を含めいろいろな質問がある中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしています。
田島先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!


【国立科学博物館 海獣学者 田島 木綿子 先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1.くじらは超音波で仲間と会話すると聞いたのですが、それは異なる種類のくじらでも会話することはできるのでしょうか。

ある程度はできるようですが、同じ種類だけで会話できる超音波の鳴音(めいおんといいます)もあるようです。ちなみに、超音波を出すのはハクジラ類のみ。ヒゲクジラは超音波は出さない、出せる器官を持っていない。です。

★質問2. クジラは,どのような生物が進化したものなのですか。

陸上哺乳類の中で水辺を好む種類のようです、今生きている動物では、一番カバが近いので、カバのような半水棲適応した動物が、クジラたちになったようです。

★質問3. クジラはいつ誕生したのですか。また、鯨の祖先はどのような暮らしをしていたのでしょうか。

化石種が発見された年代により情報は変化しますが、現在では、約5000万年前の地層からクジラの化石が発見されているので、そのくらいの時期に誕生したようです。

★質問4. クジラは一食で、何をどのくらい食べるのでしょうか。

これは種類によりだいぶ変わります。世界最大の動物であるシロナガスクジラですと、1回の食事で水を含みますが、約1トン、1日で4トンから16トン食べると言われています。それでも海には豊富な生物が沢山いるので、シロナガスクジラが海の生物を食べ尽くしてしまうという心配はありません。

★質問5. なぜ一部の哺乳類は一度海から陸上に出てきてまた海に戻ったのでしょうか。海のほうが餌が豊富だったからでしょうか。
また、陸から海に戻った当時の体形は今と異なる物だったのでしょうか。

なぜ再び海に戻っていったのか?その本当の理由は残念ながらわかりません。それが進化というものです。ただし、進化する理由は、決してネガティブではなくどちらかというとポジティブな理由が支持されています。そのため、陸上よりも圧倒的に海の方が彼らにとって魅力的で生きやすかったはずです。海に適応するために、4つ足動物だった化石種から現在の流線型の形に変化していったので、その過程では今よりもたとえば少し足のようなものが付いていたなど違いはあったようです。

★質問6. 哺乳類が子宮で育つことを選んで進化できた理由やきっかけは、哺乳類の進化においていつごろなのですか。

約2億4800万年前から約6500万年前の中生代の地層から哺乳類の化石は発見されているので、この辺りからいたようですが、ネズミやネコぐらいのサイズしかいなかったようです。そして新生代になると爆発的に哺乳類が増えたようです。進化できた理由はわかりませんが、逆で、子宮をもつある動物が長い時間をかけて生き残ってきて、それが結果的に哺乳類という動物グループを作ってきた、ということですかね。
哺乳類が子宮で育てることを選択したというよりは、たまたま子宮をもった哺乳類がそれによって生き残り作戦に勝った、ということです。進化とは結果しか見られないので、その始まりや過程はどうしても我々人は見る・知ることはできません。
タイムマシーンが開発されれば、その時代に行ってつぶさに観察できるのですが。。。だからこそ、その見えないところを色々探っていくのが面白いところでもありますね。

★質問7. サンプルの回収とは、どんなものを持ち帰るのですか。
また、サンプルから種の同定をするとは、どうやって調べるのですか。

ストランディング調査の時は、可能な限りありとあらゆるサンプルを持ち帰ります。DNA解析用筋肉、表皮、環境汚染物質解析用筋肉、皮脂、肝臓、腎臓、血液、脳、胃内容物、生殖腺、病気があったらそこを含む臓器の一部。全身骨格、寄生虫、胃からみつかるプラスチックゴミ、展示や教材に使うために胃を丸々とか心臓丸々持ち帰ることもあります。
海の哺乳類の場合、当たり前のことがまだまだわかっていないので、あれ?これなんだろう?とかあれ?これまだ知らないなあ、と思うところはなるべく持ち帰って後で調べられるようにすることが重要ですね。

★質問8.田島先生が研究者の仕事をしていて達成感を感じるときはどんな時ですか。

達成感ですが。。そうですね。長年続けてきたことがまとまって、形になった時ですかね。それが論文だったり、学会発表だったり、展示だったり、執筆本だったり、まとまり型は様々ですが。

★質問9. 将来の仕事をさがしています。研究者になるのはむずかしいですか。どうやってなるのかわからないので知りたいです。
また、田島先生がなぜ研究者という職業を選んだのかについてもご教授いただけますでしょうか。

そうですか。。。研究者になるのは正直とても厳しい道ですね。自分で0から1にしていかなくてはいけません。誰かの1を100にするのは、真似っこになる可能性もあり、自分独自の発想ではなくなる場合もあります。いかに白紙のキャンバスに自分で絵を描き、地図を書き、道を切り開いていけるか?が一番重要だと思います。
あと、決してお金持ちにはなれません。お金よりももっともっと楽しいこと、嬉しいこと、重要だと思えるものが研究や調査にあるんだ!ということがわかる人でないと厳しいかもしれませんね。
田島は研究者になりたくてなったわけでないので、というかほとんどの研究者はそうだと思います。好きな分野を突き詰めて行った先に研究者という道が続いていた、というのが正解でしょうか。田島は最初に獣医師になることを目指したので、それは獣医系大学に行って、獣医師免許に合格すれば、獣医さんにはなれますね。獣医師免許を持ちながら、もちろん研究者を目指す人は沢山います、田島もその一人です。研究者になるためには、どうしても博士号を取得する必要があります。普通大学だと、四年卒業した後、二年の修士過程、三年の博士課程を経て、博士号を取得します。獣医系大学はもともと学部が六年生なので、そこから博士課程四年を過ごし、博士号を取得します。日本は、こうした学生さんへの支援が本当に乏しいので、博士号を取るにも授業料や受験料などまあまあお金がかかります。そこも日本全体の問題の1つですね。

★質問10. 「海獣学者、クジラを解剖する。」が面白かったので、つぎに何か読む海獣学の(小学生・中学生向けの)本を紹介していただけますか。

うーん、そうですね、 中村玄さんの「クジラと骨と僕らの未来」 はどうやったら研究者になれるのか?のヒントになるかもしれませんね。
松田純佳さんの「くじらのおなかに入ったら」も面白いです。
岡崎雅子さんの「寝ても覚めてもアザラシ救助隊」も最近出た本です。
あとは、田島が監修した「海棲哺乳類大全」は専門書ですが、よかったら見てください。

田島先生の特別追加講義、いかがでしたでしょうか。
田島先生、お忙し中、ありがとうございました!


★番外編 寄生虫のかぞえかた「せき」の漢字がわかりません。お母さんもわからなかったので教えてください!
(※講義中の質問で、漢字が見せられなかったのでここでお答えします!)

寄生虫の数え方「せき」の漢字はこちらです。→「隻」
寄生虫は、1匹、2匹ではなく、1隻、2隻と数えます。比較的大きな船を数える単位と同じ。面白いですね。