【第5期第1回講義特別編!】
「えっ、これも外来種?あなたの知らない間に侵入する生物たち!」
国立環境研究所 五箇公一先生

6月23日の第5期 第1回講義にてご登壇いただいた、国立環境研究所の五箇公一先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
感想を含めいろいろな質問をいただきましたが、余りにも数が多いため、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお答えいただきました。

五箇先生の追加の特別講義、少し難しい言葉もありますが、ぜひチャレンジしてみてください!


【国立環境研究所 五箇公一先生がみんなの質問に答えます!】

●質問1.国産のクワガタは交配、繁殖させても良いのですか?
外来種との繁殖させることとの違いはなんでしょうか。

日本国内のクワガタムシにも地域ごと、島ごとに固有の遺伝子組成(DNA塩基配列)をもっています。遺伝子の地域固有性を維持するためにも、国内の種といえども、むやみに異なる地域間の個体を交配させて「交雑種」をつくることは避けたほうがいいと考えられます。たとえ、実験的に交配させたとしても、その交雑種は絶対に外に逃がしてはいけません。

外来種=外国産種ではなく、国内・国外関係なく、本来の生息地から異なる地域へ生物を移動させると外来種となります。じゃぁ、生物はどれも絶対に動かしてはいけないの?と思うかも知れませんが、まずはそれぞれの生物種がどの程度地域間を移動しているのか?あるいはまた過去から現在に至るまで、どのように分布推移してきたのか、など生物の移動実態、進化プロセスを十分に調査して、その種をどのくらい移動させたらいいのかを検討することが重要になります。現在のDNA分析技術はそうした調査を可能にしてくれる強力なツールであり、今後、さらに生物分布に関する詳細な情報が得られると期待されます。

みなさんもおうちで飼育している生物がいたら、それはもう元の生息場所から連れ出された生物であり、みなさんの家が新しい住処であり、野外に逃がすことは絶対にしてはいけません。飼っているペットは死ぬまで面倒を見るのが飼育者の責任になります。

補足:知っている人もいると思いますが、いま環境省が進めているトキの増殖事業は、実は中国産のトキを増やして、国内の野外に放して、野生復帰させることを目指しています。これは明らかに外来種の増殖にあたります。この問題は研究者の間でも議論されており、賛否両論があります。自分たちの都合のいい動物だけ、外来種でも導入して、増やしていいのか?正直なところ、この事業は「トキを取り戻したい」という人間のエゴ(わがまま)の現れと言われても仕方のないことだと思います。


●質問2.外来生物を捕まえたらどうすれば良いですか?

環境省の外来生物法の規制対象種である「特定外来生物」に指定されている外来種は、勝手に捕まえてはいけません。特定外来生物を見かけたときは必ず近くの市役所か県庁に連絡してください。

それ以外の外来生物、例えばミシシッピアカミミガメなどを捕まえた場合は、自分で死ぬまで面倒を見れない場合は、元いた場所に逃がしてください。別の場所に逃がすことはやめてください。また、外来種がいたことを近くの市役所か県庁や博物館に知らせましょう。

なお、外来生物に限らず野外で生物を触った時は必ず石鹸で手洗いを十分にしましょう。野外の生物は様々な病原体を持っているリスクがあります。


●質問3. 外来種は全てに害があるのでしょうか。外来種がその土地に良い影響を与えることもありますか?

外来生物は本来その土地にはいなかった生物であり、そうした生物が侵入することは地域固有の生態系システムを元の状態から異なる状態に変えてしまうことになります。この変化は自然の流れ(進化の歴史)では起こり得なかった変化であり、やはり外来種を持ち込むことは自然の流れに逆らう行為だと言えます。

外来生物が持ち込まれることで、例えば外来雑草や外来樹木のおかげでCO2の吸収が高まり、温暖化が抑制された、という効果や、あるいは外来のミミズが侵入したことで土壌の栄養素が豊かになった、といった変化は、人間から見て都合のいい変化であって、自然界から見れば、本当なら起こらなくてよかった変化であり、やはり自然の流れに逆らう現象だということになります。

人間の役に立っている外来生物のトップランナーはセイヨウミツバチです。このハナバチはヨーロッパ原産で家畜化されて世界中に巣箱が移送されて、花粉媒介やはちみつ生産に利用されています。人間との付き合いはもう200年を超えるとされます。このハチは人間の役に立っており愛すべき昆虫として扱われていますが、彼らが増えれば増えるほど、そして私たちにハチミツをたくさん供給してくれればくれるほど、自然界では在来のハチや昆虫たちが餌を奪われ、その数を減らすことになります。実際にセイヨウミツバチが大量に飛び回っているエリアでは、他のハチやチョウが飛んでこないことが知られています。

有害か無害かは全て人間側の都合で決められます。外来生物は増えれば何らかの影響を生態系に与えることには変わりはありません。


●質問4. 日本で存在が確認されている外来種の数はどのくらいいますか?
また、日本から海外に外来種として渡る生物もいるのですか?

これまでに生息が確認されている外来生物は2,000種類以上とされます。ただし、これは目で見てわかる生物種に限られており、目に見えないダニやカビ、バクテリアなどの寄生生物、微生物についてはほとんど調査がされていません。

日本から海外に移送されて問題になっている外来種には以下のようなものがあります。
・クズ(雑草):緑化目的でアメリカに持ち込んだら大繁殖して手が負えなくなっている。

・イタドリ(雑草):19世紀にシーボルトが日本からイギリスに観賞用に持ち込んでしまった。いまイギリス国内では一番厄介な雑草になっている。

・ワカメ(海草):バラスト水(タンカーが空の船倉に入れる海水)に紛れて日本近海のワカメがアメリカ近海で大繁殖して、海の生態系を変えて、漁業や物流に影響を与えている。

・コイ:日本からアメリカに持ち込まれて、アメリカ国内の内水面で生態系に悪影響を与えている。

・ミチバチヘギイタダニ:ニホンミツバチに寄生していた日本産のダニ。ニホンミチバチは彼らを除去する方法を知っているのでこのダニが大発生することはないが、日本に持ち込まれたセイヨウミツバチは、抵抗する術を持たず、あっという間に感染が広がり、日本から持ち出されたセイヨウミツバチ巣箱に乗って世界中に拡散。現在世界レベルでセイヨウミツバチ減少をもたらしている。

・カエルツボカビ:日本原産の両生類感染症。沖縄のシリケンイモリが起源と考えられ、日本国内のカエルたちは、もう抵抗性をもっているが、海外の両生類は抵抗性を持たないため、世界レベルの感染が流行し、多くの希少種が絶滅の危機に立たされている。ウシガエルの国際移送によって世界中に持ち込まれたと推定される。


●質問5. ダニアレルギーは、全てのダニが原因となっているのでしょうか。

一般家庭でアレルゲンとして問題になっているダニはチリダニの仲間(ヤケヒョウヒダニ・コナヒョウヒダニ)だけです。
その他のダニでも、大量に長期間接触を続けているとアレルギーになる恐れがあります。


●質問6. ダニには何を食べ、どのような条件で進化し、種を増やしているのでしょうか。

ダニは地球上に5万種以上知られており、その生活場所、生活様式、餌、は多種多様に分化しています。
また北極・南極以外のエリアで、水中から樹上までありとあらゆる場所で彼らは生息しています。
多様な種が生息していることで環境の変化に応じて、また新しい種が進化を続けています。


●質問7. 研究の仕事のやりがいは何ですか? 新しい発見をしたときはどんな気分ですか?

やはり人が見たことのない現象や種を発見して、それを発表することでみんなが「面白い!」と言ってくれることが励みですね。


●質問8. 先生が1番大切にしている仕事をする中での心がまえについて教えて下さい。

努力を怠らないこと
自己満足に終わらないこと
公共の利益を優先すること
自分自身の考え方を常に進化させること
美しい日本語を書くこと



五箇先生!ありがとうございました!!!