3月9日(土)に、茨城高等学校・中学校にて第6回講義を実施しました。今回は、「第5期生」の最終講義です。

大トリとなる最終講義は、杏林大学医学部 リハビリテーション医学の准教授であり、医学博士としてJAXAにも開発員としてかかわっていらっしゃる「山田 深先生」に、「宇宙における生命と医学」というテーマでお話をいただきました。山田先生は、大学教員であるとともに、リハビリ科専門医として、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で日本人宇宙飛行士のリハビリに携わっていらっしゃいます。

今日の講義を通じての子どもたちのミッションは3つ。
➊.将来のミッションへ向け、宇宙飛行士の任務を知ること
➋.宇宙で生きていくため必要なことを説明できること
➌.地上での健康について考えること

というわけで、山田先生による子どもたちのミッションのスタートです!!

有人宇宙飛行の歴史は1961年から。69年のアポロ11号による月面着陸など、様々な歴史を経て、現在は国際宇宙ステーション(ISS)で、各国の宇宙飛行士が集まり、さまざまな活動が行われています。ISSの構成施設である日本の実験棟「きぼう」は有名ですね。ISSは地球から高度約400キロのところに浮かんでいて、「時速28,000kn」の速度で移動をしています!

そんなISSへ人や荷物を運ぶのは、アメリカのスペースシャトルがなくなってしまった今、ロシアのソユーズ宇宙船です。ISSでは6人の宇宙飛行士が約半年間滞在し活動をしています。


有人宇宙開発の歴史やISSの知識を入れたところで、話は、「宇宙飛行士の仕事」へ。宇宙飛行士と言えば、船外活動におけるロボットアームの操作や実験を思い浮かべると思いますが、宇宙からの交信イベントや、実験用具、食事などの在庫管理、船内からの観測など多岐にわたります。

そして、地球とは全く違う環境の中、その環境に適応し、トラブルが起きても自分たちで対応するために、地球上では、救命救急訓練やサバイバル訓練、120キロにもなる宇宙服の知識や、それを身に着けての活動訓練、宇宙船内でかかる体重の何倍もの重力に耐えうる訓練など、多岐にわたる訓練や勉強を行うそうです。

ソユーズ宇宙船はロシアの宇宙船なので、帰還時はカザフスタンの草原に着陸するのですが、そごは極寒の地域。もし何かトラブルが起きて、着陸地点がずれ、すぐに救急対応するチームがかけつけられない場合に、ともするとマイナス20度にもなる地域や海の中で、自力で宇宙船を脱出し、救急がくるまで生き延びる、そんな究極の状況での訓練もするそうです。想像を絶しますね。

そんなさまざまや仕事がある宇宙飛行士ですが、宇宙での生活も大変です。食事や歯磨き、トイレやお風呂、着替えに睡眠・・・。無重力なので、もちろん布団をかぶっては眠れません。寝転がるということすらよく分からない状況です。

食事は、昔はチューブ状であまりおいしくなかったようですが、現在はたくさんの種類の宇宙食が登録されているようです。「長期保存」ができ、「飛び散らず」「安全」であることが条件です。ラーメンも、一口大で、粘りのあるスープにすることで、宇宙食になっているそうですよ。学生たちから、「あまりおいしくなさそー」との声も。

宇宙飛行士の野口さんがVTRで紹介されていたある日の朝食は、グレープフルーツドリンクに、オムレツ、野菜とマッシュルーム、これらをトルティーヤにはさんで食べる!ちょっとおいしそうです。もちろん、トルティーヤは浮いてます。(笑)

水は6人の半年分をすべて持っていくことはできないので、65%はリサイクルです。水を再生するための装置があるそうです。リサイクル対象は、空気中の水、吐く息の水分、そして自分たちの尿も!飲めるようになるほど再生できるのはすごいですね。宇宙飛行士の野口さんがVTRでお話しされていた言葉が印象的でした。「昨日のコーヒーは、今日のコーヒー。今日のコーヒーは明日のコーヒー!」。ちなみに、500mlペットボトル1本をISSに運ぶためのコストは「20万円」だそうです・・・。

このような生活を送りながら、宇宙飛行士は6か月間を宇宙で過ごし、地球に戻ります。そして宇宙の環境は地球の環境と全く異なるため、人間の身体にも大きな変化をきたすそうです。まず、宇宙について数日後に起こることは、顔も含め体がむくむこと。重力がないため、体中の血液が足の先から移動し、頭の血液量が増えるからです。逆立ちをして頭に血が上っている状況です。慣れによって、脳の判断により、その血液の偏りは改善されるそうですが、大変な感覚だと思います。そして、なんと背が伸びる!大きい変化のある人は7センチも伸びるそうです。

ただ、筋量と骨の密度は大きく下がります。骨の密度は骨粗しょう症の10倍もの速さでもろくなってくそうです。このような状態ですから、帰還はまず歩けません。着陸後、医療用テントに抱えられて収容されている飛行士の姿はテレビなどでも目にしますね。

それでも、その状況をすこしでも改善するために、宇宙飛行士は毎日「運動」をしなければなりません。ただ「走る」「ジャンプする」「筋トレ」など、地球上で簡単にできる運動が、宇宙では思い通りにはいきません。宇宙でラジオ体操をするVTRを見せていただきましたが、腕を右に振り上げると、途端に体が右回転。勢いよく上に手を挙げると、上に浮かんでバック宙状態に回ってしまい、まったくうまく動けません。

子どもたちもその様子に笑ってはいけないのでしょうが、大笑い。宇宙での運動の大変さを知りました。そんな状況でもいろいろな装置を駆使し、日曜を除く毎日週6日、一日2時間の運動をしなければなりません。運動も仕事のうち。大変ですね。

帰還後は筋力低下、骨密度低下とともに、脳がバランス感覚も忘れてしまいます。そのような状況を改善するため、帰還後はしっかりとリハビリを行って機能回復を図ります。山田先生は日本人宇宙飛行士のリハビリの内容を開発し、1人1人について指導をされているそうです。

ISSは今、ずいぶん古くなり、将来運用が終了する時期が来ます。その先の宇宙開発の未来は、地球からさらに遠く離れた「火星」へ。ISSは地球まで約4時間ほどで帰ってこられますが、火星ともなると3~5年!簡単に帰ってこられない状況で、人間の体はどうなるか?寝たきりになってしまうのではないか?よりよいトレーニング方法を考える必要があるということでした。
3~5年の期間を健康でいられる技術づくりへ。「より遠くに、より安全に。」山田先生のミッションは続きます。

これらの火星探査世代の中心となるのは、子ども大学水戸の学生の世代です。今日のミッションをクリアして、ぜひ興味を持ってほしいということでした。

ちなみに宇宙飛行士になる条件の基本は、
・英語が話せる
・身長158~190cm
・体重50~95kg
・視力1.0以上(めがねOK!)

最近はロシア語も勉強しなければならないようですが、ぜひどうでしょうか?未来を担う子どもたちに、ぜひ挑戦してもらいたいですね。

山田先生、休み時間のサイン攻めにも笑顔で答えて頂き、ありがとうございました!