【第5期第6回講義特別編!】
「宇宙における生命と医学」
JAXA開発員 杏林大学医学部 山田 深先生

3月9日の第5期 第6回講義にてご登壇いただいた、JAXA開発員で杏林大学医学部の准教授、山田 深先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
感想を含めいろいろな質問をいただいた中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしています。
山田先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!


【JAXA開発員 杏林大学医学部 山田 深先生がみんなの質問に答えます!】

●質問1.山田先生は、なぜ医学の中でもリハビリテーション医学の道を選んだのですか?
また、どのようなきっかけで宇宙と関係したリハビリテーションを行うようになったのですか?

決まった臓器だけにとらわれないところを魅力に感じて、リハビリテーション医学の道に進みました。
筋肉や骨、関節以外に、脳や心肺、血液循環などの幅広い知識と技術が求められます。環境に適応して生きていくための方法を考える医学がリハビリテーション医学ですが、宇宙で生活するためにもリハビリテーションが必要になります。
とても奥深い学問だと思っています。


●質問2.今は、宇宙船に宇宙飛行士のみが搭乗しておりますが、今後宇宙船の開発技術の向上とともに医者など様々な職業の専門家も宇宙飛行士と一緒に搭乗することになるのでしょうか?

宇宙飛行士の中には医師の資格を持った人もいます。
むしろ、いろいろな専門家としての背景を持った人が訓練を受けて宇宙飛行士になっているわけですね。
特別な訓練を受けなくても宇宙に行けるようになって、さらにいろいろな職業の人が宇宙に行けるようになるといいですね。


●質問3.宇宙飛行士が、宇宙から未知の病原体を持ち帰ってくる事はあり得るのでしょうか?

可能性が全くないわけではありませんが、現在のところ、大きな問題としては取り上げられていません。
むしろ、年単位で宇宙で生活することで、宇宙飛行士の体に今まで知られていなかったような変化が起こってくることは十分に考えられます。


●質問4.宇宙飛行士は、地球に帰ってきた際に、地球上での食事にも慣れるのに時間がかかるのですか?

体自体が地球に慣れないと食事もおいしく食べることができません。
帰還直後の多くの飛行士はめまいや吐き気を感じ、これらの症状が改善するまでに時間がかかることがあります。
なお、宇宙で味覚はかわらなかったという研究結果もあったり、人によっても味覚や嗅覚の変化には差があるようです。


●質問5.宇宙飛行士が地球に帰ってくる際に、なぜ塩水を飲むと下半身に血がいくのを防ぐことができるのですか?

塩水を飲むと、塩分が吸収されて血液の中のナトリウムという物質が増えます。
ナトリウムが濃くなるとそれを薄めようと体が反応して血液の中の水分が増えます。そうすると、結果的に体の中の血液の量が増えるので、血圧が下がりにくくなります。
血圧の高い人が塩分を取りすぎてはいけないのはそのためです。


●質問6.山田先生が、宇宙飛行士のためのリハビリテーションを考える際に大切にされている事は何ですか?

宇宙飛行士が怪我をしないことがまずは大切です。
運動中に転んで骨を折ったり、足をひねって捻挫をしたり、靭帯を切ったりすると大変です。無理をしすぎないように、かといって楽にはなりすぎないように、適度な負荷を調整する必要があります。


●質問7.現在、宇宙空間での運動は何種類くらいあるのですか?
また、今後はどのような新しい運動ができるようになると思いますか?

現在、国際宇宙ステーションで主に行われている運動はランニングと自転車漕ぎ、そして筋力トレーニングの3種類です。
宇宙で運動するためには、重力がなくても体に抵抗を加えられるような特殊な装置が必要になります。そして、宇宙で使う運動機器には小型で場所を取らない、長い間使っても壊れない、飽きが来ない、などの条件が求められます。
電気で筋肉を刺激してトレーニングするような装置などは有用かもしれません。


●質問8.宇宙飛行士に対するリハビリテーションが発達していなかった時代は、宇宙飛行士はどんなことをして地上での生活に慣れていたのですか?

スペースシャトルの短期飛行ミッション(10~17日)では帰還後の特別なリハビリテーションは行われず、体が自然に慣れていくことに任せていました。
飛行期間が長くになるにつれて、宇宙で使う運動機器もいろいろなものが開発され、地上でのリハビリテーションも体制が整えられてきています。


●質問9.リハビリテーションや医学分野からの知見で考えると、現在、宇宙へ子どもや身体的な障がいがある方、高齢者であっても行く事は可能なのでしょうか?

いままでの宇宙飛行士の最高齢記録は77歳です。高齢者でも条件が揃えば宇宙に行くことはできます。
ただし、地球に戻ったあと、身体の機能を回復するためには若い人に比べて時間がかかるし、若い人ほど元には戻らないことが予想されます。
子どもの場合は宇宙という環境で過ごすことが身体の成長や発達にどんな影響を及ぼすかが分かっていないので、子どもが宇宙に行ける日が来るにはもう少し時間がかかると思います。
あと、宇宙は歩かなくても過ごせるので、障がいがある方には過ごしやすいかもしれませんね。


●質問10.先生が1番大切にしている仕事をする中での心がまえについて教えて下さい。

”さすが”といってもらえるような仕事をしたい、大人でありたいといつも思っています。
これは大学生の時にアメリカンフットボールのコーチから指導していただいた姿勢です。
肩書に恥じないよう、勉強をして、準備をして、自信をもってミッションに臨めるよう、心がけています。


山田先生、お忙しい中お答えいただきまして、ありがとうございました!