【第7期第4回講義特別編!】
「左右がひっくり返った鏡の中では宇宙はどうなる?~対称性と宇宙創成の謎~」
東北大学 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
田中 香津生 先生

お待たせいたしました!
2020年11月14日に行われた第4回講義にご登壇いただいた、東北大学 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 田中先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
感想を含めいろいろな質問をいただいた中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしました。
田中先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!


【東北大学 サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター 田中香津生先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1. どのようにして時間・左右が反転している部屋を作るのでしょうか。
あれやこれやと用意すると大変なので、基本的には「電気」と「回転」のみを上手く使います。理科の時間でコイルに流して磁場をつくったことはありますか。この時左回りに流す場合と右回りに流す場合でできる磁場の向きが逆になったはずです。つまり、左右が反転した世界や時間が反転した世界では電磁石で発生する磁場が逆になるわけです。このように、電気の流す方向のみで時間・左右を反転するような条件を作ることが可能で、基本的にはこの方法を上手く使いながらやっていることが多いです。

★質問2. 粒子と反粒子の研究をするなかで、特に難しかったところはなんですか。

反粒子は粒子と衝突すると消滅してしまうので、できた反粒子を何にもぶつけないようにする必要があります。ようは真空中の何もない空間から動かないように閉じ込めるんですが、「ぶつからない」というのはとっても難しいですね。また、そもそもこういった素粒子は目で見ることができないので、うまくいっていないときに、その原因を考えるのはとっても難しいです。

★質問3. 反粒子はどのように観測しているのでしょうか。
反粒子はどのように観測しているのでしょうか。
いくつか方法がありますが、基本的には粒子とぶつけて、消滅するときに発生するエネルギーを検出することで観測をします。この時に発生するエネルギーの大きさは決まっているので、きちんと放出されたエネルギーを測れば、どういった反粒子だったかを知ることができます。

★質問4. 加速器ではどのように粒子を加速しているのでしょうか。
加速器の種類によって様々です。例えばスイスのCERNにある一番大きな加速器では陽子のみが加速できます。ただ、それだけではもったいないので、CERNの敷地内には他にもたくさんの種類の加速器があり、様々な粒子を加速しています。そのうちの1つが陽子の反物質である反陽子だったりします。

★質問5. 今までで1番大変だった研究はなんでしょうか。
とにかく「新しい」ことにチャレンジすればするほど大変になると思っています。むしろ新しいことをしても大変じゃなかったことは経験がないですね。そこで、どこまで過去の経験を生かしつつ、どの程度新しいことを取り入れるか、というバランスが研究をするうえで大事だなと感じています。あまりに全てを新しくデザインしてしまうと、うまくいかなかったときに全く手掛かりがなく前進しないので、長い研究期間の中で着実に研究を進めるうえで、こういった実験デザインが難しく、大事なところだと感じています。例えば反粒子の研究をするときは、全く同じ装置でまずは「粒子」で研究をします。粒子は簡単に用意ができるので、どんどん失敗ができるので、まずはこれで十分な経験を積んでからいよいよ同じ装置に反粒子をいれてみるわけです。全く先に進まないほど「大変」な研究にならないようにこういった工夫をすることが大事なことだと思っています。

★質問6. 答えのないことを調べる時はどのようにしていますか。また、それが納得のいかない答えだった時、どのように区切りをつけているのでしょうか。
研究を行う上で「仮説」は設定しますが、「期待」は設定しないことが大事なルールです。例えば、白いカラスがいないはずであると考えて研究をしたとします。その研究過程の中で仮に白いカラスを発見したとしても研究者は「がっかり」しないです。なぜなら白いカラスがいたということは予想外ということになるので、そこにはまだ私たち人間が知らない面白いことが潜んでいるはずだからです。これがものづくりと違うところですね。性能がいいものを作りたいときはどうしても性能を「期待」しますよね。一方こういった自然科学は納得できない答えというのは新しい世界を知ることができるので、むしろ喜ばしいことなのです。

★質問7. 研究をしていく上で挫折しそうになった時はありますか。また、どのようにその時はどのように対処したのでしょうか。
たくさんありますね。というか、一番大変な時はいつも「もうやめたい」と思ったり正直します。これは研究者によって意見が分かれるところかもしれませんが、私は1つのことだけにのめりこんだりしないようにするのが大事だと思っています。上手くいくかどうかは時期やタイミングもありますし、他のことをやっているうちに解決法が思いつくこともあります。なので、専門分野や技能を1つに絞ったり、プロジェクトを1つのみに集中するのではなくて、複数の人と協力しながら色々なことに取り組むことで、そのうちの1つが上手く進んだり、自信につながったりするものだと思います。これは小中学生にも同じことがいえると思っていて、せっかくたくさんのことを吸収できる機会だからこそ、複数のことに取り組んでみることで、なにか追い詰められたり自信を失っても切り替えられるような環境づくりは大事だと思っています。

★質問8. 先生が小中学生にぜひ読んでもらいたいと思う書籍はありますか。
私が小中学生の時は小説から科学の本まで幅広く読んだ気がします。年齢が上がるにつれて「読んだ方がいい本」とか「読まないといけない本」が増えてくるので、是非この時期は色々なジャンルの本を読んでみるのがいいと思っています。(よくある小中学生におすすめのお話〇選、みたいなものに載っている本はだいたい読んだ気がします)
一例を出すと、小中学生の時はスターウォーズが大好きで、映画の後の話を描いた小説を100冊以上読んだと思います。映画も各エピソード100回以上観ていて、英語が分からないのになぜか結構なシーンのセリフを暗記していました。どうも凝り性だったようです。これ以外にもこういった「はまった」作品はいくつかあって、是非色々触れながら何かにのめりこんでみるといいと思います。

★質問9. 物理学はどうしたら楽しく勉強できますか。
物理は自然法則などを学ぶ学問という感じがするのですが、私個人の持論としては「未知の疑問を、考えたり実験できたりする形にするための技術」だと思います。例えば、宇宙ってどうやってできたのか?という手のつけような問題も、物理の研究者は様々な実験で検証できるように単純化したりしながら置き換えて研究を進めてきたわけです。これは学校で学ぶ「物理」でも本来は同じことです。どうやったら地球って丸いことが分かったのか?ということを考えてみましょう。これを確かめる手段は実は結構たくさんあって、中には小中学生でもチャレンジできるものもあります。このように「自分が気になる疑問を検証できる形にする」トレーニングだと思って取り組むのが大事だと思っています。ところがなかなか、学校では事前に与えられた法則や仮説から考えることが多く、自分の疑問を解決するプロセスってまだまだ少ないと思っています。そんな中で、自由研究なり探究活動を通して自分の知りたいことを考える経験を得ることが、本来の物理の楽しさを知るいい方法だと感じています。ちなみに私は小中学生の時はどちらかというと「物理」の勉強はそういうわけであまり好きになれませんでしたが、自分で疑問を検証するような経験を得られた高校生になってようやく楽しくなったという背景があります。当時はともかく、こういった経験は今だと様々な機会で得られると思っています。

★質問10. 頭で考えることと、手を動かすことどちらが大切だと思いますか。
頭で考えることと手を動かすことをバランスよく行うことが大事だと思っています。小中学校では、「理科」の分野で手を動かす機会は実験だったり自然観察などでたくさんあると思いますが、高校に進学するとぐっと減ります。実は高校に入って「物理」が嫌いになる学生は多いのですがその背景には「頭で考える」ほうに偏るようになってしまっているからだと思います。一方研究者になると、忙しい研究スケジュールに追い込まれ、「手を動かす」ことばかりになり、考える時間が得られないという状況もあります。これはこれで研究者が研究を詰まらないと感じる機会でもあるわけです。ということで、バランスをとることは結構難しいのですが、方法の一つとして、「誰かと協力する」というのがあります。人といっしょにやることで手を動かす作業を分担し、時には自分よりも器用な人によりレベルの高いことをしてもらうことができるかもしれません。また、人と一緒に協力してやるということは自分のやりたいことや気づいたことを全て共有する必要があるため、その都度一緒に頭で考える機会になります。これは研究者にとって重要なテクニックで、小中学生が何かを始めるうえでも大事なことだと思っています。

★質問11. 「宇宙から飛んでくる素粒子」、と先生は言っていましたが飛んでくるのは、放射線の中性子線ですかそれともα線・β線ですか。
宇宙から飛んでくる素粒子は様々な天文現象に由来していて、中性子・α線・β線以外にも非常にたくさんのものが降ってきています。例えば太陽から太陽活動由来で振ってくる粒子も色々あります。是非調べてみるといいでしょう。

★質問12. 素粒子は1秒間に手のひらぐらいの大きさに1個の間隔で宇宙から降ってくるといっていましたがそれは生物に影響はあるのでしょうか。

どれぐらい宇宙線で被ばくするかというのはICRPという国際委員会がとりまとめています。基本的にそれ以外の自然からの被ばく量同じように十分健康に害がない程度という風に評価されていますが、「本当?」と疑問をもって実際に観測・評価をしている中高生もいますよ。

★質問13. 粒子の加速のしかたを教えてください。
基本的には電気の力で加速します。プラスの電荷をもっている粒子はマイナスの電荷があるとそちらに引き寄せられますよね。引き寄せられるということは速度が上がっているということになるので「加速」しているわけです。このような「常に目の前から引き寄せられている」ような状態を巧みに作ってあげると粒子はドンドンと加速してすごい速度になるわけです。この「常に目の前から引き寄せられている」ような状態をつくるのは色々と工夫が必要なのですが、このあたりは興味があれば調べてみるといいでしょう。

★質問14. 「中学生がやったら絶対楽しい!」と言っていましたがなぜ小学生や高校生ではなく中学生なのですか。
ちょっと補足をしますと、これからの時代では高校生が探究活動を行うのは当たり前になっていくと思っています。一方、まだまだ中学校ではこういった探求を行う機会が整備されていないことが多く、個々の中学生がどれだけ主体的にそういった世界に飛び込もうとするかで機会の量が変わる、とても重要な時期だと思っています。そういう意味で「中学生がやったら絶対楽しい!」ということでした。小学生も、もちろんやったら絶対楽しいですが現状宇宙線に関しては小学生を対象とした探究活動自体が世界的に見てもほとんどないのが現状です。ただ、これも近いうちに変わるかもしれないですし、私も小学生が楽しく宇宙線探究できる世界を早く作っていきたいと思っています。



田中先生、お忙しい中ありがとうございました!