【第8期第1回講義特別編!】
「プラスチックごみと食品ロス、どうすれば減らせる?しかも同時に?~解決方法を一緒に考えてみよう~」

国立環境研究所
資源循環領域
主任研究員 稲葉 陸太 先生

お待たせいたしました!
2021年6月19日に行われた第1回講義にご登壇いただいた、国立環境研究所 資源循環領域 主任研究員の稲葉 陸太 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
感想を含めいろいろな質問をいただいた中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしました。
稲葉先生の追加の特別講義、非常に詳しくお答えいただいております。ぜひ読んで学んでみてください!


【国立環境研究所 資源循環領域 稲葉 陸太 先生がみんなの質問に答えます!】

★質問1.プラスチックはなぜ丈夫なのでしょうか。また、なぜ丈夫にも関わらず、マイクロプラとナノプラにちいさくなってしまうのですか。

「プラスチックが丈夫」というのは、とくにガラスや陶器と比べたときのことです。例えば、窓ガラスやガラスコップに少し強い力を加えると割れてしまいますが、同じ厚さのプラスチック板やプラスチックコップなら同じ力でも割れないでしょう。もちろん、もっと強い力を加えていくとそのうち割れてしまいます。また、鉄などの金属に比べて丈夫とはいえません。
つぎに、プラスチックがマイクロプラスチックやナノプラスチックのように小さくなる1つ目の理由は、まず、石などの硬いものに強くぶつかって割れたり、削れたりすることが考えられます。つまり、ちゃんと言えば「わりと丈夫だけど、強い力で叩くと割れるし、削る力にも弱い」ということになります。2つ目の理由は、太陽の光が当たることです。太陽の光には、紫外線という人間の目には見えない光の成分が含まれていて、それが当たるとプラスチックの分子(モノを形作っている非常に小さな要素)のつなぎ目が壊れて、崩れていくのです。これが繰り返されてどんどん小さくなりますが、生き物が栄養として取り込める物質までには分解されず、とても小さいけれどプラスチックのまま残り続けてしまうのが問題となっています。

★質問2. 2016年に日本の科学者たちがPETプラスチックを食べるバクテリアを開発したそうですが、現状どのような効果が出ておりますでしょうか。

よく勉強されてますね。おっしゃるように、2016年に日本の吉田先生たちが書いた研究論文(「Science(=科学)」という世界で一番レベルの高い研究雑誌に掲載)で、PETを分解して栄養にする細菌を発見したことが報告されています。詳しく言うと、この細菌が作る酵素という物質がPETの成分を分解して、それをこの細菌が栄養として生きられることが分かった、ということです。とても面白く、期待できる発見ですね。この研究は世界的に注目され、2021年の今、吉田先生や、その研究を知った世界中の研究者がさらなる研究を続けています。この2016年の研究の時点では、2mmのPETを1か月かけて二酸化炭素と水に分解していたのが、2018年の英国のポーツマス大学の研究では数日になり、2020年のニュースではそこからさらに6倍になったそうです。同じく2020年、フランスのCarbiosという会社は、10時間でPETボトルを90%分解する酵素を発見したそうです。ただし、短時間で分解するには70℃以上にしておく必要があるそうで、そのためのエネルギーがかかることが課題のようです。また、世の中で流れているものすごい量のプラスチックのうち、バクテリアに食べてもらえるのはどれだけか、を確かめていくことになりそうです。ずっと先の未来では、これ以外にもプラスチックを分解する技術がたくさん出てきて、役割分担していくのではないかと思われます。

★質問3. 今後、プラスチックを一切なくした世界は来るのでしょうか。

私たちの便利な暮らしの多くはプラスチックを使うことで支えられています。ですから、急にプラスチックをなくすことはとても難しいでしょう。しかし、プラスチック製品を使わなくてすむ方法(例えば、プラスチックストローを使わずに直接飲めるカップのフタなど)、プラスチックではない素材で製品を作る方法(植物素材のストローなど)などが出てきています。こういった取り組みが少しずつ増えていけば、プラスチックも少しずつ使われなくなっていくでしょう。完全にプラスチックがなくすのはとても難しいと思います。できたとしても、かなり未来(2050年より先?)になると思われます。ただ、完全になくすことはできなくても、てってい的にリサイクルして、川や海に流れ出すのをほとんど防ぐことはできると思います。

★質問4.たくさんの植物をバイオプラスチックの産生に使用すると、結果的に環境破壊につながらないのでしょうか。

するどいご質問ですね。バイオマスプラスチックをたくさん生産する場合、原料となる植物をたくさん栽培しなければなりません。もし、その植物をこれまで存在する畑で栽培できるなら環境破壊はほとんどないと言っていいでしょう。でも、もし、新しい畑が必要になって、自然の森などを切り開かなければならないなら、環境破壊が起きてしまいます。ですから、バイオマスプラスチックを生産するときは、それに必要な植物の量や畑の広さを確かめて、環境破壊が起こらないように計画することが大切です。

★質問5. 海洋プラスチックの回収はされているのでしょうか。また、海洋プラごみの使い道(リサイクルなど)などがございましたらご紹介ください。

はい、海洋プラスチックの回収は世界中で取り組まれています。ただ、海はとても広いので、今ある技術ですべてを回収することはかなり難しいでしょう。そこで、少なくとも海に浮かぶプラスチックがたまり易い港などの場所を狙って回収することも考えられています。そうすれば人手やお金やエネルギーを節約できます。また将来、すごい技術やあっと驚くしくみが考え出されて、回収が進む可能性はあります。それについては、子どもの皆さんが柔らかい頭で思い付いて下さるのではないでしょうか。それから、回収された海洋プラごみの使い道については、そもそもまだ回収される量が多くないので、今のところしっかり決まっていませんが、リサイクルの試みもあります。例えば、コカ・コーラ社は回収した海洋プラをリサイクルして25%混ぜたPETボトルを開発しているようです。

★質問6. 環境保全の観点から、先生が考える「理想の社会」を教えてください。

「ゆとりとおもいやりのあるやさしく、かしこい社会」です。ゆとりがあれば急ぐためのエネルギーは節約できますし、自分でご飯を作る時間ができて買ってくるための容器が減らせたりします。食べ物が余らないように、余ったら上手に使えるようにじっくり考える時間もとれます。おもいやりがあれば、食べ物や容器が作られるところ、捨てられるところを考えることができて、環境に良いモノをえらんだり、行動ができたりするきっかけになると思います。こうやって、他の人や生き物にやさしくできて、そのための技術やシステムを組み込んだかしこい社会を作るのが理想です。

★質問7.なぜ現在の研究分野を選んだのでしょうか。

私は、子どものころからいきものが好きでした。それで、テレビで野生のいきものが人間が自然を破壊するせいで滅んでいくのを観て、「何とかいきものを守りたい」と思っていました。大学に入ると、環境に関係する勉強をするようになりました。そして、ごみ問題にくわしい先生に教えてもらうようになりました。その先生は、「稲葉くん、環境問題は突き詰めるとごみの問題になるよ」とおっしゃいました。確かに、地球温暖化も、人間が石油を燃やして出す二酸化炭素などが原因ですが、それもガスの形での廃棄物ではあります。ごみの問題は地味でつまらなさそう、と思われるかも知れませんが、調べてみるとなかなか難しいけれども面白い問題でした。そんなわけで、ごみやリサイクルの研究をするようになりました。

★質問8. 先生が普段の生活にて行っている、おすすめの食品ロスやプラスチックゴミを減らす方策はございますでしょうか。

なかなか難しいですが、私がやっていることは次のとおりです。まず、食品ロスを減らす方法としては、①子どもがよく食べてくれる料理を作ります。ただし、栄養のバランスも考えています。うちの子どもは野菜の好き嫌いがあまりなくて助かってますが…。②作りすぎないように(食べ残しが出ないように)、材料の分量を調整します。③晩御飯の残りを次の日の朝ご飯の一部として、朝ごはんの残りをお昼ご飯の一部として出します。つぎに、プラスチックごみを減らす方法としては、①お買い物でマイバッグやマイバスケットを使います。②ラップをできるだけ使いまわします。③プラスチックストローは使わず、直飲みです。④プラスチックをできるだけ使っていない商品を選びます。

★質問9. 世界で一番プラスチックごみを出していない国はどこでしょうか。

色々なデータがあるのですが、Science(サイエンス:科学)という世界で一番レベルの高い雑誌に載ったジャムベック(Jambeck)さんの研究論文によると、プラスチックごみの排出量が最少の国、つまり一番プラスチックごみを出していない国はナウル(太平洋の島国です)で、1年間に527トンとなっています。2番目に少ないのはツバル、3番目はパラオで、いずれも太平洋の島国です。逆に、一番多いのは中国の1年間に6千万トン(年間)で、2番目がアメリカの1年間に3千7百万トン、3番目がドイツ、4番目がブラジルで、5番目に日本(1年間に8百万トン)が来ます。よくみると、人口が一番多い中国がプラごみが最多で、人口が少ない太平洋の島国がプラごみが小さくなっていて、なんだか当然のような気がしますね。それでは、1人当たりの量ではどうでしょうか。一番多い国はクウェートで、1年間に1人当たり0.69キログラム(年間、1人当たり)となっています。2番目がアンチグア・バブーダ、3番目はセントキッツ・ネービスとなっていますが、皆さんにはなじみがないかも知れません。有名な国では7番目にドイツ、15番目にアメリカ、81番目に日本、119番目に中国となっています。1番少ないのはインド(1年間に1人当たり0.01キログラム)です。

★質問10.日本のような国土の狭い国で、もしも埋め立て地がいっぱいになったらプラスチックゴミはどこに処理するのでしょうか。

とてもするどいご質問ですね。おっしゃるとおり、日本は国土が狭いです。国土が狭いとごみの埋立地もかんたんに作れません。それもあって、日本ではごみをまず燃やして灰にして量を減らします。そのうえでその灰を埋め立てることが多いです。プラスチックは燃やすととても量が減るので、この方法が選ばれてきました。でも、世界的にもプラスチックは燃やすよりリサイクルしましょう、という動きになってますし、日本もそうなっていきます。ごみとなったプラスチックはまず分別して出されることになりますが、分別し切れなかったプラスチックは、他のものと混ざったごみとして集められ、やはり燃やされることになるでしょう。燃やされて灰になるととても量が少なくなります。でも、もし、埋立地がいっぱいになったら、もっともっと一生けんめい分けてリサイクルしなければなりません。少し前まで、日本でごみとして出たプラスチックは、かなりの量が中国に運ばれてリサイクルされていました。でも、最近、中国は外国からのプラスチックを受け入れるのを禁止しました。そのため、日本で出たプラスチックは国内でリサイクルしなければならなくなり、もっとしっかり分ける技術、リサイクルする技術の開発と実用化に向けた取り組みが進んでいます。



稲葉先生、お忙しい中、非常に丁寧にお答えいただきまして、本当にありがとうございました!