【第9期 第2回講義】
「アナウンサーのお仕事 ~時代の変化と伝え方~」
株式会社TBSテレビ
TBSアナウンサー 蓮見 孝之 先生
お待たせいたしました!
2022年7月2日に実施した「第2回講義」にご登壇いただいた、株式会社TBSテレビ TBSアナウンサー 蓮見 孝之 先生より、皆さんの質問に対する回答が届きました!
学生の子どもたちから、感想を含めいろいろな質問がある中、余りにも数が多いため、皆さんからの質問が多く、先生だからこそお答えいただける専門的な質問にまとめてお願いをしています。
蓮見先生の追加の特別講義、ぜひ読んで学んでみてください!
【株式会社TBSテレビ TBSアナウンサー 蓮見 孝之 先生がみんなの質問に答えます!】
★質問1. AIがニュース番組を読んでいるのを拝見しました。
アナウンサーやレポーターの仕事は今後どの様に変化していくと思いますか。
おもしろい質問ですね!そう遠くない未来にAIキャスターがニュース原稿を読む時代は来るかもしれません。むしろ、AIであれば人間のようにトラブルを起こす心配もないし、そもそもニュース原稿すら必要ないとなれば「紙の削減」に繋がりますよね!まいったな・・・(汗)私もAIに仕事を取られないように頑張ります!!
ちなみに、アナウンサーの中には、ドラマに出演したり、歌を歌ったり、雑誌のモデルや執筆活動などをしている人たちもいるんですよ!そう考えると、もう既にアナウンサーの仕事は変化し始めているのかもしれませんね。そもそも、職種や役割を示す「肩書」というのは、あって無いようなものです。例えば、アニメのアフレコをタレントさんが務めたり、ドキュメンタリーのナレーションを芸人さんが読んだり、現在ではお笑い芸人さんがニュース番組のコメンテーターを務めたりすることも・・・。逆に言えば、職業というのは、あなたの夢や目標を形にするための手段に過ぎないということ。意思があれば「肩書」にとらわれない様々な活躍の場があるということです。継続したいこと、実現したいことがあれば、どのような職業に就くのが最善か?そのような職業選択があっても私は良いと思いますよ!
★質問2.授業内で、アナウンサーの意見は言わない方がいいと仰っておりましたが、誰かの意見を伝えると、その人を応援していることになってしまうとも言っていました。この場合、反対意見を言っている人、賛成意見を言っている人の両方を伝えればいいのですか。
無難だと思います。ただし、重要なことは「私たちも【人】である」ということです。賛成・反対、両者の意見を伝えることは、単にバランスを取るためではなく、「事実を伝える」という点で重要なのです。一方で「私たちも【人】です」。一人の人間として抱く感情はあるはずです。私は自分自身がパーソナリティを務めるラジオ番組を担当しています。大事にしていることは「私自身のスタンス」です。その点について番組開始以降、色々と考え直すことがありました。ラジオは音声メディアですから、ジェスチャーや表情では伝わりませんし、会話する相手の発言に対し沈黙を貫けば、それは「同意」とみなされます。肯定できないのであれば何らかの言葉を発する必要があります。例えば「私は〇〇と思います」「〇〇さんは、そのようなお考えということですね」など、意思表示が必要です。アナウンサーである前に、私も「人」であるということ。これは引き続き意識していきたい点です。
★質問3.アナウンサーの仕事をしていく中で失敗したと思ったことはございましたか。
もちろん、失敗したことは沢山ありますよ。むしろ、失敗したことのない人なんて一人もいないと思います。大事なことは、何かあったときに、それが失敗であったと認めること。例えば、ニュースを読む際の失敗例といえば、漢字や人名、地名の誤読や、決まった時間内に原稿を読み収めることができなかったといったケースがあります。アナウンサーは二人で交互に読む場合や、1人で読む場合にも隣に様々な指示を出す「フロア」というスタッフがいます。理想を言えば、一緒にスタジオに入る人間から、「読み間違えているよ!もう一度読み直して!」と指示があったり、「CMまで残り10秒だよ!」と、こんな風に意思疎通できれば良いのですが、その場で立て直すことができない場合もあります。そんなときに何らかの失敗があったら、あなたはどう思いますか?「何で言ってくれなかったんだよ!」「もっと分かりやすく指示してくれよ!」と憤りますか?やはり、そこはいったん落ち着いて、そもそも自分自身が失敗してしまったことがいけなかったのだと、自らを省みることが大切なのです。もちろん、同じ失敗を繰り返さないようにするために「次はこうしてもらえると嬉しいです」「本番中でも声に出して注意してほしいな」と建設的なやり取りをすることも大切です。ちなみにアナウンサーの場合、一番に考えなければいけないのは視聴者です。本番が終わった後では視聴者にお詫びすることができません。だから、ミスやトラブルがあった場合にはその場で言い直すことが大切です。ただ一方で、何度も訂正を入れるようでは大事な情報が届けられません。まずは、失敗をしないように「準備」「確認」することが大切なのです。
★質問4.アナウンサーの中で一番大事なこと・特に気をつけていることはなんですか。
私らしい働き方を意識しています。アナウンサーは会社員でありながら番組の出演者でもあります。そのため、テレビ番組という表舞台にどれくらい立てているか、つまり出演時間や露出の頻度は一種の評価基準と言えるでしょう。ただし、アナウンサーの仕事は表舞台に立つことだけが全てではありません。ナレーターやスポーツ実況、提供読み、ラジオの仕事、他にも大勢の人たちと直に接する様々なイベントなど、その業務内容は多岐に渡ります。そのような時に私が気をつけているのは、私自身の納得感です。現在、私は週に5日間の生放送番組を担当していますが、それ以外にも元々関心のあった「教育」に従事する仕事にも取り組んでいます。こうして皆さんと出会うきっかけとなった「子ども大学水戸」でのお仕事も大変有意義な時間になりましたし、TBSの仕事とは別にあくまでプライベートな活動として、地元・さいたま市の小中学校での講演活動などにも携わっています。こうした活動は、直接視聴者の目に触れることはありませんが、私が私らしくいられるとても幸せな時間となっています。また、「働き方改革」と同時に「休み方改革」も重要です。目の前の仕事に対し、「私にしかできない!」という気持ちと、「私じゃなくてもできる!」という気持ちとを天秤にかけながら「公私のバランス」を取るよう心がけています。私は1人のアナウンサーでもありますが、1人の父親でもあります。もちろん「仕事は適当にやっておけばよい」という意味ではありません。「仕事も家庭も全力で!」だからこそ、メリハリのある生活が大切です。良い仕事をするためにも「休息」や「プライベート」も大切にしたいと思っています。
★質問5.伝えようとしたことが相手に伝わらなかったことはありますか。そのとき、どの様に対応しましたか。
伝えるために、届けるために、様々な準備をしていたとしても伝わらないことはあります。そもそも、私たちアナウンサーが普段、何に向かって話をしているか想像してみてください。私たちはスタジオにあるカメラに向かって話をしています。つまり、視聴者の皆さんの表情や反応を見ることができないのです。ですから、ちゃんと伝わっているのか?ちゃんと情報が届いているのか?それすらも分からないまま、番組はどんどん進行していきます。そのような状況下だからこそ、私は「ある人」をイメージしながら話をしています。「ある人」というのは、私の知っている「誰か」のことです(笑)
というのも、万人に届く100点満点の話し方や伝え方は存在しません。当然です。人の興味、関心は異なりますし、好き嫌いもあるでしょう。けれども一人でも多くの人に伝わるように話すのがプロの仕事です。そこで私は、その都度、伝えたい人や年齢層、性別、国など、届けたい相手をイメージしながら話すようにしています。例え多くの人が納得しなかったとしても、その「誰か」にさえ伝わってくれれば・・・という気持ちです。ぜひ!あなたが大勢の前でお話を披露するような機会があったら、あなたが一番伝えたいと思っている「誰か」を想像しながら喋ってみてください!
★質問6.私は人に説明をするのが苦手で、いつも話をする相手に最初から内容を聞き返されてしまいます。どのようにすれば相手にうまく説明できるようになるでしょうか。
練習方法があれば教えてほしいです。
あなたは素晴らしい才能をお持ちですね!「人に説明をするのが苦手で・・・」このことを自ら客観視できる力は、まさに今後の上達に欠かせない大事な力なのです。あとは、伝えるテクニックやコツを掴めれば段々と上手になっていくはずですよ。
例えば、「これから〇〇の話をします」というように、まず、これから話したいことを先に提示する。話す側からすれば「伝える準備」が必要ですが、聞く側にも「聞くための準備」が必要だからです。話題を提示してみて相手が反応を示してくれれば、きっとあなたの話も伝わります。逆にいえば、話題を提示してみて相手が前向きな反応をしてしてくれない場合には、その話はまた次の機会にとっておきましょう!
それから、一方的に話すのではなく、相手が頷いたり、聞き直してくれるような「間」を取りながら話すことも大切です。会話は1人ではできません。相手がいてこそ会話が成り立ちます。ですから相手の表情を見ながら話を進めることも大切に!
最後に、「接続詞」の使い方も重要です!
私のこれまでの説明を読んでいて何か気づくことはありませんか?「例えば・・・」「それから・・・」「最後に・・・」というように、冒頭に「接続詞」を用いていたでしょう。これも話のテクニックです。「一方で」「けれども」「ところが」「さらに」など、会話にメリハリをつける重要な武器になるのが「接続詞」です。そうした点を意識しながら、ぜひ!会話を楽しんでみてください。
★質問7.ニュースキャスターがどうしても許せない事件などがあったときに、それを報道する上でどのように自分の気持ちをコントロールすれば良いのですか。
気持ちのコントロール、とても難しいです。「それが仕事なのだ」と割り切れないことも多々ありました。そんな時に落ち着いて取材や放送に臨むためにも、テレビを見ている人たちが「何を知りたいのか?」を大事にしています。と同時に、当事者に寄り添った取材・放送を心掛けることも重要です。テレビもラジオも放送時間は限られています。だからこそ、当事者から聞き取った貴重な証言をできるだけ聞き取った通りにお伝えすること、これが重要です。
★質問8.リポートをする時に、もっと上手にするためにはどんなことを意識すればいいですか。
「上手」の定義は様々ありますが、私の考える「上手」なリポートとは「映像に溶け込む」リポートです。リポーターの存在が目立ってしまうと、現場の雰囲気や臨場感が損なわれてしまうことがあります。
・長すぎず、短かすぎず
・速すぎず、遅すぎず
・大きすぎず、小さすぎず
その場その場に応じて、どのように伝えたら、最終的に一つの映像作品として見やすいものに仕上がるのかをイメージしながら言葉にすることが大切です。
★質問9.アナウンサーの仕事をしている中でやりがいを感じることはなんですか。
会えない人に会える!行けない場所に行ける!非現実的なことが現実になる!それに尽きるとおもいます(笑)
ただし、これは後々、大人になった時に理解できるようになることですが、仕事はやりがいだけではやっていけません。
仕事は夢や目標をかなえるためのものでもあり、それ以前に、生活していくための手段でもあるということ。
何だか夢のない話をしているように聞こえてしまうかもしれませんが、先日の講義でもお話ししたように、同じアナウンサーでも、
仕事の内容は多岐に渡ります。加えて、私のような会社員のアナウンサーもいれば、フリーランスのアナウンサーも大勢います。あなたらしい理想のライフスタイルを模索しながら、どのような働き方が自分に合っているか、じっくり考えながら夢や目標を追いかけてほしいと思います。
★質問10.これまでに辛い報道をする機会もたくさんあったかと思います。先生が心を折らずにアナウンサーの仕事を続けることができた理由はなんでしょうか。
あはは、私が心を折らずに今の仕事を続けてこられたと思いますか?(笑)
お恥ずかしい話ですが、何度も心が折れそうになったことがありますよ。でも、私たちが辛い、苦しい、悲しいと感じている以上に、ニュースや報道の渦中にいる当事者はもっともっと大変な環境に立たされているということを忘れてはいけません。
私は主にニュースの現場で仕事をしてきましたから、人の生死に関わる様々なニュースに直面する機会が多くありました。では、スポーツやバラエティを担当しているアナウンサーはそうした葛藤とは無縁なのか?決してそうではないと思います。例えば、誰もが知っている有名な選手、アスリートも、いずれ引退を決めなければならない時が訪れるでしょう。そんな時、その選手をずっと見続けてきたアナウンサーはどんな言葉で実況するのか・・・。また、有名な方たちが何らかのトラブルを起こしてしまったり、もう二度と芸能界に復帰することはないだろうと、そんな絶望の淵に立たされた時、何度も共演してきたアナウンサーは何と声をかけるのでしょう。このような葛藤は少なからずどんなアナウンサーも抱えているはずです。だからこそ、目の前の仕事に対し真剣に取り組むこと、そして、それを継続すること。こうした気持ちがとても大切なのだと思います。
★追加で回答をいただいています!(質問11~32)こちらから!
蓮見先生の特別追加講義、いかがでしたでしょうか。
一つ一つ、丁寧にお答えいただき、蓮見先生が質問者の子どもたちに語り掛ける声が聞こえてくるようでしたね。
蓮見先生、お忙しい中、ありがとうございました!!!